※0はおまけです。


審神者が若かりし頃。


まだ刀剣男士たちの中にも、
審神者が人間の女であるということから
見下している者がいた。
それは屋敷にきて日が浅い者がほぼ通る道である。
特に、打刀や太刀はその類にいることが多い。
この屋敷では比較的少ない方であったが。


そう、同田貫と大倶利伽羅である。


この二人だけは一番馴染むのが遅かった。
大倶利伽羅の方は、無言の抵抗。
そして、同田貫の方は、ずばずばと暴言を吐いた。


怯える短刀達と、やれやれといった風な脇差。
そして言葉にはしないながらも何かしら思うところがあるだろう
残りの刀剣男士達の空気に、審神者がある日立ち上がったのだ。


「刀であり、ましてや男士で付喪神。二言は有りませんね?」
「あぁ?」
「言うことを聞かせたいのならば戦って勝てと仰いましたので」


表に出ましょう。


後に、内心では表に出やがれその喧嘩買ったぞ、と
思っていたと、本気か冗談かわからない微笑みで語っていた。


何事かと集まってくる者。
心配そうにしている者。


様々な思いのある中で、この若く一見ひ弱な女主が
本当に戦えるのだろうかと皆内心では気になっていた。


「丸腰で戦うのかよ?」
「お望みであれば。ああ、大倶利伽羅と二人で同時に」
「・・・・は?」


流石に周りの空気も変わった。
相手はあの同田貫と大倶利伽羅だ。
一人を丸腰で相手するのも無謀だろうに。
二人同時に相手をするという。


「二人が同じように言ったのでしょう。戦って勝てと」
「後悔しねぇな?遊びじゃねえぞ」
「・・・冗談でもない」
「これが遊びで冗談と言うのならば即刻刀解しています」


審神者の目は、本気だった。

にこりと笑って、足袋を脱いで縁側にそれを置いた。
本気で武器も持たずに相手をするのだろうか。


「お、お待ちを主!我々は審神者の言葉であれば―――」
「承知しています。ですが、そんな無理強いは嫌でしょう?」


嫌々動いてもらうことは、私も望みません。


「さあ、どうぞ?」


特に構えもせずに、審神者は後ろ手を組んでいた。
まるで庭を散策でもしているようだ。
その様子に舐められていると怒り心頭な同田貫が遠慮なく
腰に下げた本体をぬき斬りかかった。


――――・・・その筈であった。


斬りかかった場所には確かに審神者がいた筈。
しかし、どこにもその姿はない。
観戦していた者らも見回している。


「くっそ、どこだ!」
「此処です、と親切にすぐに教えませんよ」
「っ・・・!?」


同田貫が声のする方に顔を向ける隙もなく
審神者はその体を地に叩きつけた。
いつの間にか、審神者は上に跳び同田貫をかわしたというのか。
上から全体重をかけて何かの衝撃を同田貫に叩き込んでいるように見えた。


「合気道、というものかな?」


石切丸が冷静に呟く。


「それに近い型なのでしょう。ですが、どこか違うようにも」
「しかしあの一撃だけで同田貫が立ち上がれないってのは」


ざわめく周囲の声に、体を震わせて起きようとするが出来ない。
静かに見下ろしてくる審神者の顔は、笑っていた。


「自身を過信し、相手を見誤る。よくないことですよ」
「・・っるせ・・・!!」
「先程のは様子見です。そしてあの間に拘束する札を貼りました。」


貴方の体はそこから動くことは出来ません。
大倶利伽羅に外してもらっては?


「慣れ合うつもりはない」
「二人で来てもいいと言ったのですが」


困った人達、否。刀達ですね。


やれやれと大倶利伽羅に向かって立ち、
また特に構えなどはせずに審神者は立っていた。


「流石に貴方はすぐに飛び込みませんね。」
「・・・・・」
「二人のことは、見ていますから」
「・・・そうか」
「ええ。ですから―――」


一瞬のことだった。


瞬きをしている間に距離をつめたとでもいうのだろうか。
審神者の姿は大倶利伽羅の下に潜り込み
きらりと小さな光が大倶利伽羅の腹の前に現れた。


パチンと小さく弾けたそれに、大倶利伽羅の体は
庭園の池にばしゃりと突っ込んでいた。


「他に、私を認めない方は?」


誰からも、言葉は上がらなかった。


その中で・・・


「一手、頼もうか」
「三日月殿?」



意外な発言者に、皆が唖然とする。
その中で、審神者と三日月は世間話をするように
ただ、にこりと互に微笑んでいた。


「殺しはせん。安心しろ」
「ふふ、殺されては困りますよ三日月」


どこに隠していたのか。
袴からがしゃりと音を鳴らして
仕込み刀が三日月を襲った。
まるでわかっていたかのように、
三日月は華麗にそれをかわして距離をとる。


それからは、まるで演舞を見ているようだった。
殺気も、怒気も、不浄なものや気も何もない。


しかし、それでも猛々しい戦いだった。


池から出た大倶利伽羅も、札を外してもらった同田貫も、
誰もが、言葉をなくして、二人を見つめていた。


「皆、これで満足であろう?」


三日月の言葉に、何故彼が一戦を申し出たかの意図を理解した。
自分が審神者と闘うことによって、審神者は弱者ではなく、
しっかりと身を護る術等を持っていることを見せつけたのだ。
同田貫と大倶利伽羅との戦いだけでは、恐らく二人は納得しないだろう。
故に、三日月はそれを見越して、一戦を二人に見せることで
納得させようとしたのだと。


「二人も、どうだ?」
「・・・二言はねえよ」
「・・ああ」
「では、これで御開きとしよう。なあ、審神―――」


とさり。と、細い人の体が地に伏せた。
三日月の目が見開かれる。
「大将!!?」「主!!!」と
それぞれの叫ぶ声が響き渡った。



―――――――・・・・。


「すまなかったな」
「何を言うのやら・・・ふふ」


審神者が目を覚ましたのは、綺麗な三日月が上る夜。
床に伏したまま、三日月が傍らに付き添っていた。


「ついな。楽しくなってしまった」
「私も、楽しかったですよ?」
「はは。そうか」
「ですが・・、とても悔しいです」


皆に、醜態を晒してしまった。
隠し通そうとしていたのに。
同田貫と大倶利伽羅の言うことは尤も。
私は人の身の女で、彼らよりも弱いですから。
あの一撃で二人が倒れなかったら、即負けていました。
体力がないもので、短期決戦でなければ持ちません。


「皆に、幻滅されたかもしれませんね」
「何を言うか」
「私は審神者。皆を率いる者。それが容易く倒れるなどあってはいけません」


それなのに、私は皆の前で倒れて。
こうして床に伏せて・・・


――――泣いてしまう。


「今は、三日月しか見ておらぬぞ。」


泣け。



声を殺して泣く審神者は、誰が見ても若い普通の人間の女だった。
三日月の視線が、障子の向こうを見やる。
二つの気配が、静かに遠ざかるのがわかった。
二人に聞こえるように話したのは正解だったようだ。
明日には答えが出るだろう。なあ、審神者よ。



翌日、審神者が内番の見回りをしている際に、
二人が文句も言わずにちゃんと仕事をしている姿に。
心からの笑みを浮かべて困惑されることになるのである。











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