厨に立つのは、歌仙と光忠だ。


「今日はどうしようか」
「そうだねえ。・・・ん?」
「どうした」
「しーっ」


光忠は人差し指を口の前にもってきて
静かにするように歌仙に伝える。
ちょいちょいと反対の手で厨の入口を指さす。
歌仙は視線だけそちらに向けると、
こっそり隠れて覗き込んでいる華を見つけた。
何か言いたげに此方に入ろうとして、
しかし遠慮しているのか足を引っ込める。


記憶が封印されてから、華は距離を取るようになった。
それもそうだ、記憶が封じられているのだから。
審神者は本来の名前を明かしてはならない。
それは遥か昔からの掟の一つであり、
我々から支配を受けないようにするためでもある。
故に、華という名前は本来の名前ではないのだ。
唯一知っていたのは、今は亡き審神者だけのはず。


「ふふっ。先にお八つでも作ろうかな」
「餡子はあったかな」
「和菓子でも作ろうか、実に雅だ」
「華ちゃんは餡子が好きだっただろう」
「!」


びくりと肩を震わせているが、恥ずかしそうに俯いて
こくりと頭を振る姿が愛おしい。
8つになられるまでの間、ほとんど人と接触もしなかったと聞く。
あれだけ懐いてくっつきにきていた孫様が大人しすぎることに
二人は苦笑が浮かんでしまう。早く元のように戻ってほしいとも願った。


―――――・・・・。


「華様?」
「どうしたの清光」
「・・・寝てる?」


審神者のいた部屋の縁側で
ごろりと眠っている華を見つけて
清光は足を止めたのだった。
安定もそれに気づいて、二人で静かに近づく。
審神者の面影もちらりと見えるが、やはりまだ幼い。
清光は横に座り、起こさないように華の頭を膝にのせた。


「清光?」
「・・・いや、昔こうやってここで」
「・・・うん。そうだね」


安定も反対に座り、髪を撫でる。
これから、新たな審神者になる幼い子。
未だに危険が去った訳でもない。
そしてこれから、戦場で危機に晒されることもあるだろう。


「・・・俺、愛されるように頑張るよ」
「何言ってるの・・・。愛してくれなくても、頑張るんだよ」










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