※0はおまけです。


審神者がまだ若かりし頃のお話。


ぼくは乱藤四郎。
粟田口派の短刀で、兄弟が沢山いる。
ぼくが主様と初めて出会った時、
髪は短くて、薬研兄みたいだったなあ。
それに、スカート(最初名前がわからなかった履物)じゃなかったし。


嗚呼、懐かしいなあ。
そうそう、その時ぼくは薬研兄を薬研兄って呼んでもなかった。


え?どういうことって?しょうがないなあ。
これ、他の皆には内緒にしてよね?


――――・・・・。


そうそう、たしかぼくは審神者に会う前の
身支度をしていたんだった。
その頃から、ぼくはどうも身なりが気になっていて。
兄弟は皆、短パンを履いているのに。
ぼくはどうしても、女の子のような着物が着たくて。
とにかく可愛い物が好きだったんだ。


でも、どうしても言いにくくて。
他の兄弟がちゃんと新しい戦闘服を着ているのに。
ぼくだけ、庭の木の下でむくれてたんだ。
そうしたら、俯いていたぼくに影が被さって。
見上げたら、不思議そうな顔をしてる薬研がいた。


「何やってんだ?」
「・・・別に」
「もう皆着替え終わったぞ。お前だけだ」
「わかってる・・・」
「なんだ、機嫌悪ぃみたいだな。何かあったか」
「っ・・・」
「・・・・・」
「・・・ないの」
「ん?」


ぼくはあんな戦闘服着たくない!!


つい、大声を出してしまって
兄弟にぽかんと見つめられて居心地が悪い。
苛々する。我儘をいっているのは承知だ。
けれど、どうしても着たくなかった。



わかってほしい。

わかってもらえない。

きっと皆ぼくを嫌いになる

変だって思う

そんなの嫌だ、けれど


「何で着たくねぇんだ」
「・・・それは」
「審神者様との初対面だぞ?」
「わか・・・ってる」
「・・・・」
「・・・・・」
「なら、どんなのが着たいんだ?」
「・・え?」
「言ってみな」
「・・・・・でも」
「言わねえとわからねえ」
「・・・き、嫌いに・・・・ならない?」
「!」


薬研の言うことはもっともだ。
口にしなければ伝わる筈もない。
でも、怖い。だから、先に聞いてみた。
ぼくは知らない間に、泣いていたようで。
薬研が驚いた顔をしていたけど、涙が止まらなくて。


「ぼ、く・・・っは・・・」
「嗚呼。言ってみな」
「ぼく・・・は・・・・」


男だけど、可愛い、女の子みたいな戦闘服が、着たい。


言ってしまった。かなり小さな声だったけども。
嗚呼、もうこれで兄弟から軽蔑されるんだろうな。
きっと今顔はみれないけど、薬研も呆れている筈だ。


「いいんじゃねえか?」
「え?・・・」


今、何と言ったのか


「俺達は人の型を得た。なら、思うこともあるだろうさ」
「・・・薬研?」
「俺は俺の思うように、この人の型で生きるって決めたんだ。」


勿論、それはどいつも皆同じだと思うぜ?
だから、着たい物を着てもいいんだ。


「だが、今日はあれを着ろ。審神者様に会うのに時間がねえから。終わったら好きな服みにいけばいいだろ?」
「・・・・」
「最近悩んでたの、そういうことか」
「乱!可愛い物好きでしょう?」
「隠れて色々集めてますよね」
「え・・・皆・・・なんで」
「そりゃあ、だって」


兄弟ですから、わかりますよ


「へ、変じゃ・・・ない?」
「ちっとも」
「き、きらいになったり・・・」
「ないですね」
「・・・・・でも」
「僕も可愛いもの、好きですよ?」
「乱は顔も整っていますから」


にっ、と笑みを浮かべて引っ張り立たされた。
呆気にとられていると、そのまま部屋へ皆に連れられる。


「とりあえず、だ。早く着ないと遅刻しちまう」
「ささ、急いで」
「挨拶が終わったら、服を見に行きましょう」
「っと、そうだ。今はこれで我慢しとけ」
「!・・・・これ」


薬研から渡されたのは、紅色の紐が華の形になっている飾りだ。


「ちぃと早いが、乱が来た祝い。兄弟で話し合って用意したんだぜ?」
「・・・っう・・・」
「ほらほら、泣かないで乱」


嬉しかった。理解されたことも。
皆が、ぼくが思っている以上に、ぼくを見てくれていたことが。


その日は、ちゃんと戦闘服を着て挨拶にいったよ?
で、審神者様に泣いたのがばれて、白状することになって。
審神者様はぼくを全く変に思わないでくれて


暫くして、ぼくのために、スカートの戦闘服を作ってくれたんだ。
皆からもらった紐の飾りもつけて、今は満足してるよ。


それと、あの件から薬研が一番の相談役なんだ。
それからだよ。ぼくが薬研を薬研兄って呼ぶようになったのは。


「薬研兄ィ!」
「おう、どうした?」


さあ、今日も乱れよう!!
ぼくはぼくの思うように、人型を生きるんだから!










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