「離してッ!!やだよぉ!!!」
「もう少しだけ、大人しくしていて欲しかったです」


三日月宗近、やはり政府が消そうとするだけはあった。
その神気の力もさることながら、この華の心域へと
介入しようというのか。


少年は心域の華を引き摺りながら、
遡行軍へと通じる光へと向かっていた。


その光を潜ってしまえば、華の心は死ぬことになる。


つまりは、完全に堕ちるということ。


心の死んだ人間を、ましてやこのような幼い子を操ろうなどと
胸が痛まない訳がなかったが、自分の本体は彼らの手の内にある。


ボクの御役目は、持ち主に幸運を運ぶこと。


それが、時の政府―心酔派―の人間であるのならば


この娘子の心を壊し、殺してでも


幸運というモノを、与えなければならない。


もう少しだったのに、身体に霊体を戻したことで意識を戻してしまった。
鶴丸国永による結界を壊されたことも起因している。


己の命を投げてでも救おうとしてくれる者がいること。
この子は、とても愛されている。


「幸せにして差し上げます」
「・・・っだめだよ!いらない!!華はわかったの!」


頭の中がぐちゃぐちゃになったけれど


お鶴や、皆に酷いことを沢山したけれど


それでも、やっとわかったの


過去は、変えられない


変えたいと願うことだってある。


沢山痛かった、苦しかった、辛かった。


けれど、それを――――



「とと様も、皆も・・・華といっしょにもってくれたよ!!」


華が知らなかっただけで、皆は華を見ていてくれた。
大事に思ってくれていた、傍にいてくれた。


今もたくさん心配かけてしまっているけれど


どんなに来ないでって叫んでしまっても


「華から離れないでいてくれたっ!!今もずっと・・・っずっと待っていてくれてるの!!」


だから、帰らなきゃいけないの!!


皆が待っていてくれている、あの、あったかい場所へ


「もう、迷子にならない!!悲しくなったって、痛くなったって」




――――――――大丈夫だから!!


「今なら見えるよ・・・お名前!!」
「ッ・・・!」
「ぜったい、おむかえにいくから・・・助けにいくから!!」


待っていて?・・・・


―――物吉貞宗―――――



「迎えに来たぞ・・・華」
「!!・・・とと様!」
「遅くなったな、華。・・・娘をかえしてもらうぞ、物吉よ」
「近づかないで下さいッ・・・三日月殿!」


脇差をぬいて、華の首筋に宛がう。
ぴたりと三日月は歩みを止めた。表情は睨むでも強張るでもない。


「ものよし!!」
「ボクは・・・御役目を・・・っ果たさなければ」
「幸に呪われた因果な物よ。そなたの意志でないことは、その表情から察するに明白」
「三日月殿・・・」
「そなたを折らせはせん。華が迎えにいくと言うたのだから」


故に、一度かえしてもらえないだろうか?


「ものよし・・・華に幸運をくれる?」
「え・・・・っあ・・・」
「華の幸運はね、ばっちゃがいた時に戻すことじゃない」


物吉もいる、皆がいるあったかい本丸で暮らすこと。


「それが、ほしいなあ?」
「ボク・・・も・・・」


ボクも、生きていいんでしょうか?

貴女が産れるまでの間に、何度となく繰り返した歴史。

その歴史の中で、幸運という名の死を与え続けた。


そんなボクが、


ボク自らの、幸運を望んでも、いいのですか?



「ぜったい、おむかえにいくからね」


その小さな、骨が絡むのが見えなくなった手が
ボクの手を優しく包んでくれて。


「お待ちして、おります・・・・っ・・・」
「うん!!」


――――――――・・・・。


「あわわわわわ!!!」
「長いよちょっと長い!!!」
「大胆ですねえ〜!これが大人の接吻ってやつですか!?」
「鯰尾、落ち着きなさいッ・・そして皆見るんじゃない!!!」
「いち兄顔赤なっとぉよ」
「博多遠慮しろ!!華様あああああまだあれ程幼いというのに!!!!」
「皆、落ち着いて。あれはただ、霊体を華に返しているだけだから」
「石切丸!!冷静すぎるだろう!!!」
「ええ?でも、本当に邪なものではなく、ちゃんと意味があるんだよ?」
「そうそう、人間の身体が受け入れる、取り込む場所から返した方が早いし失敗しないからねぇ」
「青江さん!!!なんかやらしいです!!!」
「そうかい?真面目に言ったつもりなんだけれど・・ああ、口以外ならば華が受け入れられるのは―――――」
「その口を閉じぬか!!!主様が穢れる!!!!」


ぶわり――――!!!!


二人の様子を見守る中、突然閃光が走り皆目を閉じる。
光が治まっただろうと、ゆっくりと目を開ければ


枯れていた植物は緑を取り戻し、
本丸を包んでいた空気が浄化されていた。


そして、降り注ぐのは、桜の花弁。


「え・・・あれ・・・・って・・・?」
「うそ・・・・」


唇を離し、閉じていた瞼を上げた三日月が目を丸くして、
目の前で抱きしめていた娘を凝視して固まっている。


「三日月??」
「・・・・・・・・華?」
「どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・・」


―――――あなや・・・・。


きょとりと大きな瞳が自分を映している。
その瞳に浮かぶのは同じ三日月で。
白い肌を曝け出しているその姿は、小さいとはいえず


歳相応に、大人びていて。


「主様・・・素肌が・・っ・・・この狐めの衣を!」


こほんと咳払いをし、何故自分に視線を向けてくれないのかと
不思議そうにしつつ、華は小狐丸から上衣を受け取った。


「・・・三日月さんが・・・女の子になっちゃったみたいです・・・」
「いや・・・審神者様が三日月の着物きてるようにも・・・」
「・・・・・・・美しい・・・」
「・・・・審神者・・・・華がこんなにも雅に・・・立派になって・・・僕は・・・ッ!!!」


皆の様子がおかしい、自分が迷惑をかけてしまったからだろうか?
困惑しつつ、様子を見守っていれば、差し出された手に驚きを隠せなかった。


「おかえり・・・華」
「!・・・・清・・」
「おかえりなさい、華ちゃん!」
「乱ちゃん・・・!」
「心配で、芍薬さんに送ってもらっちゃったんだから」
「寝てらんないよ。・・・俺も、いつまでも弱いままじゃ、いられないしさ」


―――――おかえり、華!!!


ほろりと落ちた涙がしょっぱかったけれど
華は心からの笑顔で「ただいま」を言えた。



――――もう、大丈夫。









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