先を駆けていた霊体の華が足をぴたりと止めて
追いついた小狐丸がその体を抱き止めながら視線を先に向けた。
燭台切と大倶利伽羅が慌てた様子で倒れている白い彼を
必死に呼んでいる様に、状況を理解した。
三日月が彼らの傍に歩み、膝をつく。


「み、三日月さん・・っ・・・」
「手入れ部屋へ、危うい」
「ッ・・・くそ!」
「鶴・・・折れるなよ」
「・・・・」


返事のない彼が運ばれるのを横目に見送り
三日月はその先で皆に囲まれて怯えている華を見つけた。
使い慣れないだろう刀を両手に握りしめて、
かたかたと震わせながら、必死に自分を護っている。


「・・・みかづき・・」
「!・・・なんだ」
「・・・ごめんなさい・・・」
「お前に非などない。だが、後程父親として、叱らねばならんなぁ」
「・・・・ごめん、なさい」
「嗚呼、わかっているさ。華はちゃんと、良いこと悪いことを判断できる娘だと」
「・・・・・・」
「悪しきは何か、理解している。俺は、お前の父だ。」


可愛い、大切な娘を護る。当然のことだ。


「お前を救いたい。故に、父に任せてほしい」
「・・・うん。華、帰るね!」
「嗚呼、そうだ。小狐丸、そなたは皆を頼む」
「わかりました。主様、もう暫しの御辛抱を・・・」


三日月が霊体の華を抱きしめて、頬を摺り寄せた。
嬉しそうに笑う娘の顔に、自然と自身も微笑む。


「華や・・霊体とはいえど」


この腕に赤子のそなたを抱けたことを、嬉しく思う。


―――産れてきてくれて、感謝する。


消えていく華が放つ光が、三日月に吸い込まれるように溶けていった。


――――――――・・・・・。


「華!!落ち着くんだ!」
「かせんに化けてもだめだよ!!こないで!」
「目を覚ましてよっ!!華・・・」
「おつるが死んじゃう!もう、やなの!!やだあ!!」


先程結界を割った太刀は、倒れた瞬間に大好きな鶴丸の姿を一瞬うつして。
その瞳は優しく、間違いなく彼だった。


敵では、なかった。


倒れた彼を助けようとしたが、傍に遡行軍が近寄ろうとする。
扱ったこともない刀を夢中で振り回して、華は鶴丸を
助けたかったが、少年の声を聞いてその場から逃げた。


絡みついてくる骨が、華には綺麗な花をつけた蔓に見えていて
次第に姿を濃くするそれに、歌仙らは焦りを見せる。


このままでは、確実に飲まれてしまう。


僅かにでも見えた本来の鶴丸の姿によって
疑問を持つようになったようだが、腰に下げた脇差の影響だろうか。


どちらが真でどちらが偽りなのかわからなくなっているのだろう。


「退いてくれ」
「三日月・・・!?」
「華や、今行く。」


ぶわりと三日月の放つ神気に中てられ体をよろけさせる。
凄まじいその力に、膝をつく者も何人かいた。
華はぺたりと尻餅をついて、動けなくなっているようだ。
ゆったりとした動作で近づく三日月に、皆が固唾を飲んで見守る。


「こないで!!」
「華」
「華はまもらなきゃいけないの!」


本丸の皆を、もう誰もいなくなってほしくない!

傷ついて、痛くて、泣いちゃうから!!

華が大事に思ってた人が、いなくなっちゃうから!!

華のせいで、皆いなくなっていくの!


「・・・なんにも、みえないよぉ・・ッ!!」
「主様・・・・」
「どう・・してッ・・・!!」


どうしてみんな、いなくなっちゃうの?


おともだちもいなくなった


ははうえさまもいなくなっちゃった


つばきさんも、こまるも華のせいで・・・



みんな、華が大好きなひとが・・・


「ほんとうは・・・悪い子になろうとしたんだよ・・・でもっ・・・でもぉ!!」
「・・・華・・・」


ここにいると、あったかかった。

この本丸にいれば、皆が傍にいてくれた。

はせべが追いかけてきてくれた。

おつるが色んなことで楽しませてくれた。

かせんも、わるいことをしたら叱ってくれた。


とと様も、いつも頭を撫でてくれた。


暖かくて、失くしたくなくて・・・・・・


「だから・・・悪い子になんて・・・なれなかった!」


悪い子になれば、審神者の長になんてならなくて


誰も一緒にいなくなるから、もう胸が痛くなることなんてないんだって


そう思ったのに、なれなかった。出来なかった。


失くしたくなかった、ずっと・・・一緒にいたかった。


審神者の長とか、孫様とかじゃなくて



「華」と一緒にいて欲しかった!!!!


今、皆は華といてくれた。あったかくて、幸せだった。


それなのに・・・なんで?


「もうやめてよ・・・っわからない・・・!!」


脇差が鈍く嫌な色を放つ。
カラカラと骨が華の身体に絡みついて
着物をあちらこちら裂いていく。


白い肌から赤い滴がたれて、幾つもの傷を増やすそれはまるで


―――華の傷ついた心を表しているように見えた。


絡め取られる寸前、三日月が華の前に膝をついた。


「俺は、此処におるぞ・・華」
「っ・・・!?」


逃げようとするその小さな体を、逃さないように腕に抱き
振り上げようとする刀を取り上げて、乱雑に放り捨てる。

嫌々と首を振る華の頬に手を添えれば、
ぴたりと華はその動きを止めた。

見開かれた瞳から零れる滴。
その朱が、元の月を映すことを祈り。

ちらりと震える脇差を一瞥し、すぐに視線を華に戻す。


「俺の娘を勾引かそうとは・・・不届きな」
「三日月?一体何を・・・っ!?」
「え・・三日月さんちょっと・・まさか!?」






















「しばし、発かせてもらうぞ・・・」


くいと顎を指で掬い上げ、三日月は微笑み


―――――静かにその小さな唇と、己の唇を重ね合せた。












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