辺りに人の気配も、仲間の気配もない。
静まり返った審神者の屋敷に、二人は戸惑いながらも
警戒を緩めずに足を踏み入れた。
政府の張った結界の石は断ち切らせてもらった。
手こずるかと思ったが、簡単に壊せてしまったので
逆に警戒して暫く屋敷に近づけなかったのだが。


「・・・小夜、そっちは?」
「何もいない。部屋に急ごう」


三日月から神器を託される時に聞かされた言葉。
それだけが今は頼りなのだ。


―――蔵に行き、奥の古い甲冑をどかせ。

動かないときは斬ってしまってもいい。


蔵の鍵は前もって預かっている。
大きな錠を外して埃の舞う蔵に入った。
念のために扉は閉めておく。

薄暗い蔵の奥に進むと、言われた通り甲冑が並んでいた。
かなりの重さだ。二人で動かすのは難しい。


「主様、ごめんね。」


ガシャン!!と音を立てて、甲冑は崩れた。
音を聞きつけて何かが来やしないかと身を潜める。
しかし、何もくる気配はなかった。


壊れた甲冑をどかし、床を見やる。
うっすらと、よく見なければわからないが切れ目があった。
小夜が埃をはらい、取っ手を見つけて引く。


「地下?・・・・」
「・・三日月の言ってた通りだ」
「行こう」


慎重に下に降り、奥へと進んでいく。
審神者の蔵にまさか地下があるなんて。
誰も知らないだろうことを、三日月は知っていた。
しかし、不思議には思わなかった。あの三日月だからこそだ。


進んだ先に、扉が見えた。
木製の扉で、鍵は見当たらない。
小さく、キイと音を鳴らして、扉を開いた。


「!・・・薬研!!」


視界にうつったのは、何かの札が部屋中に貼られた空間。
少量の医薬品の入った棚と、食料だろうか。
そして、部屋の隅に布団が敷かれていて、
そこに静かに横たわっているのが薬研であることに
二人は驚きながらも駆け寄った。


ここに来るまでに、皆が本来の姿で庭や部屋等に放置されていたのだ。
それなのに、何故彼だけ人型を保っているのか。


「・・・ん・・・」
「薬研!起きて」
「・・・・・小夜、か?」
「よかった。気が付いたんだ」
「・・・蛍丸?・・ここ、は・・・」
「蔵の下の部屋だよ。何でこんなところにいるの?」
「・・・・すまん、記憶が・・」
「あ、そうだ小夜、三日月の文だ」


三日月が言っていたこと。
―――蔵についたら文を読め。


懐から文を取り出して、開いた。



之を読んでいるならば、蔵についたということだろう。
蔵の下には薬研が眠っている。政府の者が来れば、
恐らく華を連れてこの場を離れるだろう。
そうなれば、皆、本来の姿に戻される筈だ。
蔵の下は審神者が特殊な結界を貼っている故に、
薬研は人のままでおる筈だ。
そして、護衛の任についていた時に、
本体を華に持たせている。


薬研を起こし、審神者の残した最後の神器を使わせろ。
そうすれば、華の霊力が薬研の本体を通し
人型に伝わり、我々は元の姿に戻れる。


成功を祈っておる。



どこまで見通しているのか。やはり不思議だ。
そして、恐らく本来こういった事態になった際に
神器を使うように命じられていたのは三日月だろう。
でなければここまで詳しく文に書くことは出来ない筈だ。


身なりを整えた薬研は蛍丸から神器を受け取った。


「孫様を護ってから、ずっと意識がなかったんだな」
「あれからかなりたってるけど、平気?」
「嗚呼。いつまでも寝てられねぇし、皆を起こさねえと」


薬研の両手から光が溢れ、神器に送られる。
神器が光を放ち、審神者の屋敷全体を閃光が走った。


「外へ出よう。皆が・・・っ」
「薬研!ほら起きてすぐなんだから」
「情けねぇ・・・っ悪ぃな、少しだけ、手ぇ借りるぜ」










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