華の部屋で、背を合わせて物思いにふける二振りの姿。
片や天下五剣の一つにして、華の父である刀。
片や一度折れ、蘇りを果たした狐が打ちし刀。


―――審神者の闇堕ち・・・。


刀剣の付喪神である我々が堕ちるという話は
幾つか耳にしたことがあれど、審神者がそうなった話は聞いたことがない。


「そうなる前に、審神者が死ぬからだ・・・」
「・・・・・・」


付喪神の手によってか、或いは政府の人間によってか。


自害の果てか・・・。


「何が、華をそうさせる・・・?」
「わかりませぬ」
「何が・・そうさせた?」
「・・・・推察に過ぎませんが」


恐らく、人が・・・。


「・・・・時の、政府か・・」
「此方からも、宜しいですか?」


遡行軍の狙いは何でしょう?

「歴史改変」

時の流れを乱す為には如何様に?

「過去に遡ること」

では、・・・・・




どのようにして?


――――――・・・・


「我々と同じく、時を渡る道を辿り行くしかありません」
「・・・・何故、君が・・・何をしているのかわかっているのかい?」
「ええ、わかっています。」


青江が本体を構えながら対峙する相手を見つめる。
何故この場所にいるのか?意外なものだ。


「君は、利口だと思っていたよ」


――――宗三


「有難う御座います、まあ当然ですけれど」


薄桃色の髪を指で梳いて適当に視線を巡らせる。
宗三は虚ろに自分を見つめる華に本体を抜いて
輝く切先を向けた。戸惑いはなく、真っ直ぐだ。


「華、僕は貴女の決断に口は出しません」
「宗三!」
「・・・・・・」
「その背に纏わりつく不快なものに操られての意志は、無効ですが」


それに憑かれているということは
少なくとも華が、変えたいと願うことがあったから。

それは恐らく、先日の誘拐がきっかけだったのだろうけれど。
その小さな体で、重すぎる物を見て聞いて生きてきたのだろう。

密かに心配していたことが、現実になろうとしている。
いつかは、壊れるのではないだろうかと。


「遡行軍の意志ではなく、華の意志で何事かを成すというのであれば」


不肖ながら、この宗三左文字がお供致します。


「それがたとえ、歴史改変であったとしても」
「宗三!何を――」
「前審神者が歴史改変を良しとしないと言ったから」


政府の者が、皆が駄目と言ったから、闘うのですか?
では、華の意志はどこにあるのです?


期待、羨望、好奇


様々な目を向けられて、貴女は審神者の長になった。
どのような気持ちであったかはわかりません。

本当になりたかったのかも、わかりません。


「華、貴女自身の思いを」


――――今此処で、吐き出しなさい。


誰も咎めません。否定しません。
拒絶も、負の感情も向けませんから。



・・・・華の願いは、何なのです?


「口に出すのを邪魔されるというのであれば」


この刃を持ってその背の骨を葬りましょう。







「・・・・華は・・」
「はい」
「・・・・華、は・・・」



ただ、皆と一緒に本丸で生きていたかっただけ

優しい、大好きな人と一緒に、生きたかっただけだ。

庭を駆け回り、時に共に眠り、笑いあい、過ごすだけで。


審神者でなければ共にいられないというのであれば

長でも何でもなってやると、思った。



歴史を護るとか、そういうものは、どうでもいいの。


ただ・・・傍にずっといて欲しかった・・それだけ。


けれど、それが良くなかったのかな。


皆が、ボロボロになっていくの。


華のせいで、傷ついてしまったの・・・。


華は別に、一緒に遊べたらそれでよかったの

政府にいた子達とも、普通に楽しく遊べたら

でも、華のせいで、叩かれたの

嫌なことを、たくさん言われていたの


いっしょに、遊びたくないって、言ってたの


だから、華は、ばっちゃと一緒にいたかったけど

行きたくないって、言ったの


本当は、一緒に行きたかった


―――いきて、いたかった。


もう、わけがわからないの。


頭の中が、ぐちゃぐちゃしてて


胸が痛くて、背中が熱いの・・・


此処に来るまでに、華が産れなかったらよかったんだって思った。

声も、そう言っていたの。けれど・・・


そうじゃなかったね。


「わかったの・・・」


華が死んじゃったら、皆も死んじゃうよね?


それは、とってもこまっちゃうから


「・・・(まさか、此処まで浸食されているとは・・華)」


だからね、思いついたの


「華は、もう誰もいやなことにあわせたくないの」


とと様を、刀解しようと政府の大人が本丸にこようとしてるの
分霊を他の本丸に行かせないっていった、てて様も。


それに、また華を政府の秘密の場所に連れて行こうとしてる


「(敵は・・・時の政府の人間ということなのか)」
「華の意志であれば、供に行くと言いましたが」


背の骨が消えずに話続けましたから、信憑性は無いですね。
ある程度は、本心でしょうけれど・・・。


「そうざ・・・一緒にきてくれないんだね」
「残念ですけれども、その背の不愉快なものがなければお供しますよ」
「・・・そっか・・でもね、そうざ」


ぞくりと青江と宗三の背に、冷たい何かが這い上がる感覚が襲った。
それは、敵と対峙する時に感じるものと、似ていて。


「わるいこ、みつけちゃったから」


にっこりと、華は笑う。


「おしおき、しに行くの」


握っていた右手を開けば、浮かぶ光。
治まり見えたのは、蕨手刀だ。


「華のだいじなものは・・華が護る・・」


だから、みんな。




―――じゃましないでね?


瞳の三日月が、完全に深紅の闇に染まり


――――堕ちた。









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