あの晩以降から、華は起きていても声を聞くようになった。
どこで何をしていようとも、その声はついてくる。

頭の中に浮かぶ言葉は一つだけ。


―――華のせい


それはじわりじわりと体に浸透し
呪縛のように離れない。


芍薬の治療中を盗み見た光景が脳裏を過る。
刀解されかかった三日月、エレベーターで撃たれた乱。
ぼろぼろになった清光の指先。乱の引っ掻いた痕。
京都で愛染に刃を向けた明石。山に放り置き去りにした信濃。


小狐丸が折れたこと・・・・


そして・・・・



「ばっちゃ!!」
「!?・・・っ華、来ては―――」



亡き前審神者の死――――



大人しく待っていろと言われたのに
静止も聞かずに向かってしまった


もし、部屋にいかなければ、



―――死ななかった?


鬼になった審神者の弟子も
鬼にならずに、生きていたの?



どうして鬼になったの?




嗚呼、そうだ・・・



全部、華のせいだ。
華が産れたから、華が・・・


全部、全部、全部。



これでわかった?


―――うん、わかった。


なら、どうするの?



・・・・・。







チリン・・・ッ



「!・・・主様・・?」


鳴らずの鈴が小さく音を一つ鳴らす。
小刻みに震えるそれに小狐丸は政府と連絡を取り合う
男士らを背に部屋を後にした。足早に部屋へ向かう。

その間に通り過ぎる者の言葉に視線を彷徨わせる。


「風が急に止んだね?」

「うわ!?なんか井戸水が変な色してきた!?」

「おかしい・・・畑の野菜が急に萎れたよ」

「馬が騒いでるんだ!誰か手を貸してくれ!!」

「ねえ、なんか空の色おかしくない?」

「あ・・華様の好きなお花が・・枯れて・・」




―――花が、枯れて?


あの晩に見たのは、嫌な気がしたのは?


「主様ッ・・・いらっしゃいますか?」


部屋から返答がない、それに何故かわからないが


気配を感じない。


「失礼致します!」


障子を開ければ、部屋は綺麗に整頓されていた。
鈴はまだ微かに震えている。居るのはわかるが姿は見えない。


「小狐丸」
「三日月・・・」
「本丸の様子がおかしい、急にお主の姿が見えなくなった故」
「主様の鈴が鳴りました・・しかし、姿が見えず!」
「・・・・この部屋で間違いないのだな?」
「ええ・・・何を?」


三日月は部屋の奥の柱に飾られた竹の花器から
白い造花を一本抜き取ると、どこかでかたりと音がした。


「審神者がこの部屋を使っていた際に言っておった」


隠し空間へと通ずる道がこの仕掛けで開くと。


一見重そうにみえる本棚に触れれば
容易くそれが動いて道を開いた。


薄暗いその道はどうやら霊力で出来た道のようで
ぬけた先は小さな朱塗りの鳥居が構えていた。
石畳を進み奥へ向かえば、本丸にある大鏡のようなものが見えた。


「まさか・・・あの鏡は」
「・・・霊力により転送が可能な物のようだな・・それも」


俺達と同じく、時を渡ることのできる


「な、何故・・・華様は・・・」
「意図はわからぬ、杞憂であれば良し・・・・」
「三日月・・・鈴が・・・」


震えていた鈴が、動いていない。
音の鳴る気配どころか、その鈴から


華の生命力を感じない。


「・・・ッ主様・・!?」
「華・・・!!」


足早に鏡の元へ向かい、覗き込む。
意識のない華が鏡の中に見えた。
三日月と小狐丸は鏡に腕を突っ込んでみるが
その手が届くことはなく、拒絶するかのように両腕に痛みを走らせた。


「ッ華!!!」
「華様!!お目覚めを!!!どうかッ!!!」


そこをどけ、子らよ―――


声に振り返り、小烏丸の姿を捕える寸前に
二人の間を一振の太刀が通り抜けた。


あの白い鞘に金の鎖は・・・


「急げ鶴の子よ!我の力でも長くは持たん!!」
「父上!?何をなされた!!」
「我の霊力にて微弱であるが結界を纏わせたッ・・通り抜け程度であれば効果はある筈!」


鏡の中から閃光が走り三振は目を閉じる。
治まりを感じ、目を開けて状況を確認した。


「鶴の子よッ・・・無事か?」
「鶴!!無茶をしおって馬鹿者が!!」
「お嬢の為だ。俺が投げ入れろと言った・・・だが・・・・」


鶴丸が苦虫を噛んだように表情を歪めて
腕の中に抱いたそれを見せる。


「赤子・・・?」
「どういうことです?」
「・・・・この赤子は・・・まさか・・・」


三日月がすやすやと眠る赤子を受け取り目を細めて言葉を零す。



・・・華だ。










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