夜の虫の鳴き声がする。
その音色に混じる風鈴の音。
審神者の部屋の周りには、今は誰もいない。
本丸は静かに夜の闇に包まれている。
煌めく星々が飾る夜空を見ている男士は
今の時間は誰もいないだろう。


そんな中で、一人華は起きていた。


色んなことがあった。


最初はこんなことになるなんて、想像すら出来なかった。
審神者の長なんてものも知らずに、ただ本丸で幸せに過ごしていた。
優しく見守って、頭を撫でてくれる大好きなばっちゃ。
それがまさか、自分の母親だったなんてわかる筈なんてない。
刀剣男士と共に過ごす日々の中に、嫌なことなどなかった。

あの日々が懐かしくて、恋しい。
口には出せないし、出してはいけない。

だって、華が我儘を言ったりすれば、
華が寂しい、苦しい、辛いって言ったりすれば


皆が心配して、悲しい顔をするでしょう?


だから、華は辛くても、苦しくても、
痛くても、皆の前では、笑うんだ。
華が笑えば、皆も笑ってくれる。
悲しい顔をしないし、それに何よりも・・・


誰も、華から離れたりしない。


華が一生懸命術を使えるようになったり
賢くなったり、何でも出来るようになれば
皆が傷ついたりしなくてすんじゃう。


そう、思ってたのに。


どうして?



どうして、あんなことになったの?


きよも、乱ちゃんも、あおえもおひげも
さだちゃんも、やすも・・・


とと様まで、せいふの人に・・・・


小烏丸からとと様が危ないことを聞いて
良くわからないお話をされたけれど
とにかく助かるなら何でもしようと思った


だから、力を借りてせいふに飛んで行った

調停者って、よくわからないけれど
とと様を連れて本丸に帰りたかったから。



あれから2〜3日経ってる。


せいふとは連絡を華は取っていない。
皆が怖い顔をしていて、難しいお話をしてる。



どうして?



どこから、こんなことになったの?



華はただ、皆と・・・


笑って、この本丸で一緒にいたいだけなのに








―――――華のせいだよ


「!?」


閉じていた瞼を上げて、華は身を起こした。
辺りを見回すが、誰もいない。
それに、今の声は聞き覚えがある。

否、そんな程度ではない。
今の声は、明らかに―――――



――――華のせいで、皆は・・・・


「ゃ・・・・やめて・・・ッ」


蓮華に自分が言ったじゃない


華のせいだって、華のせいで


「やだ・・・ッやだぁ・・・・」


清光も、乱も、本丸の皆が傷ついたのは何故?


華が誘拐されたからでしょ?
誘拐しようと思われるからでしょう?


清光の爪がまだ治らないのも
乱の傷がまだ治らないのも

本丸から皆の笑顔が消えたのは、



――――誰のせいなの?




「華・・の・・・・」







「―――さ・・・・―――ぬし・・・ッ」
「・・・ッ」
「ぬしさま!!!!」
「!?・・・・ッ・・・」


声に意識を戻せば、心配そうに見つめる小狐丸の姿があった。
ちりんと風鈴の音が一つ。風が生ぬるく感じる。
着ていた寝巻が汗で湿っていて気持ちが悪い。


「如何なされましたか・・・?何か悪い夢でも・・」
「・・・・・へい、き・・・」
「主様?・・・」


だめ、こまるが心配してる。
早く笑わなくちゃ、安心してもらわないと


「ゆめ、わすれちゃった・・・えへへー」
「・・・左様、ですか」
「うん、ごめんね」
「いいえ、共に寝ましょうか?」
「・・・・ん、へいきだから。お部屋でねんねしてね」
「そうですか?・・・では、せめてお召し替えだけでも」
「・・・うん・・」


華から貰った鈴に呼び起こされて部屋に来てみれば
何やら魘されている様子に小狐丸はすぐ華を起こしたのだ。
様子がおかしいのは一目瞭然。此処の所元気がないように思える。
常に傍にいたいが、今は政府からのひっきりなしに続く連絡や
何かと処理に追われている為、ここ数日は離れていた。

着替えの間、華に背を向けて小狐丸は
部屋から洩れる光に照らされる庭を見つめた。
ふと目に留まったのは、いつからか自然と庭にあったカスミソウだ。


「(・・・枯れている?)」


季節の巡りで散ることはあれど、
この本丸で植物が枯れるといったことは
今までに見たことがなかった。


「(何故でしょうか・・・嫌な気がするのは・・・)」


着替えを終えた華に呼ばれ、小狐丸はカスミソウを一瞥し
気になりつつも部屋の中へと姿を消した。










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