月から生れし娘

我が子が子を育むという
考えもしなかったことの現実。

この上ない喜びであった。

孫にあたるその娘はとても愛い子。
少し青みの含まれた黒髪は父を連想させ
その父たる三日月もまた、幸せに満ちた笑みをしていた。

子の幸せが、我の幸せである。
孫の幸せもまた然り。
容姿幼くも内はそれなりに歳を重ねているようだ。
しかし、我にしてみれば赤子同然。

縁側で暖かな日差しを浴びて
我の膝に頭を乗せてうとうととする様に
くつりと笑みが無意識に零れ落ちた。

髪を指で梳いてやれば、瞼がとろりと閉じそうになっている。
時折眠らないように開かれるが、時間の問題であろう。


「でね・・・・しし兄が・・・・・・」
「・・・・華?」
「・・・・・っ!?・・・むぅ・・・とと・・さま・・・と・・・・」
「・・・・眠ってよいぞ?」
「・・・さん・・・ぽ・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・すぅ・・」
「・・・くくっ・・・おちたか」


やれ、暖かいな。
心身共に、この愛い娘の傍は。


子に独占させるのは勿体ない。
今の今まで十分に愛でてきた筈。
この父が満足するまで時は長くかかるだろうが
この場に生きる限り、それは杞憂よ。


健やかに、あの桜の花のように美しく
いつまでも心優しく、生きよ。


「ふふ・・・良い春よの」


・・・・なあ、我が孫娘よ




――――春霞 たなびく山の 桜花 
  見れどもあかぬ 君にもあるかな


紀友則・古今集より。





――――――・・・

おまけ


「父よ、華を返してくれ」
「断る。今晩は父と就寝ぞ」
「朝餉、昼餉、昼の八つ、昼寝、夕餉、風呂」


全て共にしてまだ共におるのか?


―――愚問よ三日月










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