――――ッ・・・。


誰かに呼ばれている気がする。



真っ暗な空間の中、膝を抱えて顔を伏せる華。
その頭に、誰かの手が添えられて、撫でられる。

けれども、顔を上げることが出来なかった。


「子らの、悲しみの声が・・聞こえた故に参ったのだが」


低く聞き覚えのない声がする。
撫でる手は止まることはない。


「そなた・・・人の子か?」
「・・・・・。」
「神と人の気を感じるな。不思議な子よ」


撫でる手が、止まる。
離れることはなかった。


暫くの沈黙の後に、ふむと小さく声がした。


「・・・成程」


この小さき娘の清らかなる心を乱した人がおるのか。
その人間によって、我の愛し子らが涙し、
傷を負い今も苦しんでおると・・・・・・。


「・・・そなたが望むならば、我が壊しても構わぬぞ?」
「・・・・・」


我との盟約を忘れ暴挙に出た愚かな時の政府。
人間はやはり、信用してはならなんだか。


「何故、時の政府がそなたをあの空間に入れておるのか、教えてやろうか」


付喪神とは、神と名の付く妖怪と言ってもいい。

言わば紙一重の存在よ。
時の政府は恐れたのだ、我らの力をな。


神と崇め奉る故に、遡行軍を倒す力を貸してほしい。


これが時の政府の願いであった。


我はこれを聞き、代わりに何を寄越すのかを問うた。


それが、そなたのいる本丸を維持している空間


―神域に霊力の高い人間を贄として差し出す―


その人間を、人と我等付喪神の仲介に置く


――――長とは贄という言葉を隠すための飾りよ。


こうして、幾人もの審神者の長(生贄)が
時の流れのない神域に入れられた。


我は勿論、贄としては扱わなんだ。
子らの本霊に告げて眠りについたまで。

審神者に力を貸してやれ、と。


何年眠っていたのかはわからぬが
そなたの心の泣声、確かに届いたぞ。


そしてそなたに触れて記憶を読み全てを理解した。
そなたも我の愛し子。我の神域を清める幼子。

その子を泣かせる者が時の政府というのであれば
我のこの手で、壊してくれよう。


すぐに済む、待っているがいい。


そういい離れようとする声は、
自身の着物を掴まれて動くことが出来なかった。

視線をやると、不安そうな顔で涙する華が見える。


「・・・むずかしい、こと・・・わからないけど・・・」
「申してみよ」
「・・・華は、皆といっしょにいられる、あそこがおうちで、だいすき、だよ」


でも、華のせいで、みんなが痛いことになって
沢山泣いて、心配かけたり、めいわくさせちゃったよ。


「・・・・みんなに・・・きらわれちゃったら・・・」


華は、たえられないよ・・・。


「そなたを嫌う子はおらぬぞ、愛し幼子よ」
「・・・ひっく・・・!」
「そなたが招いた事ではない。人が招いた災いよ」
「でも・・・きよ・・・も・・みだ・・れ・・・ちゃんも・・・」


治らないの、ずっと、泣いてるの。
泣いてほしくなくて、華は元気だよって笑うんだけど
笑うと、胸が痛くなるの。わからないけど、とっても痛いの。


「そなたが、痛みを吐かねばならん」
「どう、いうこと?」
「ほれ、この腕にこい」


抱き寄せられて、頭を撫でられた。


「心のままに、生きればよいのだ」


偽りをのべていれば、いつまでも治らぬぞ。


泣きたい時は、正直に子らの前で泣いてやれ。
笑いたければ、笑ってやると良い。
苦しければ苦しいと教え、悲しければ共有せよ。


そなたがそなたで生きねば

子らはいつまでも、治りはすまいて。


「そら、遠慮することはない」


――――泣き叫べ、此処は我しかおらぬ


腕の中で嗚咽を漏らし、言いたいことも言えずに
ただ、喉が枯れる程に華は泣き続けた。
煩いとも言わず、愛しむように撫でて抱いたままでいてくれる


この名も知らぬ存在に、全てを華は吐きだした。










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