それはある演練での出来事。



一般の審神者との演練の際、
華は審神者の長というのを隠して参加することがある。
それは相手に気兼ねなく参戦してほしいと言うことと、
華自身の審神者としての交流の場を設けたいという
空木と協議した結果実現したことだ。

総会にて一般の審神者に見られることはあれど、
顔は審の字を書いた布で覆われていることがほとんど。
直接見られることは年に一度くらいで、近くで見れるのは
政府の人間だけ故に、一般にはほぼ知られていないに等しい。


そして今日も、華は演練の場に赴いた。


エントリー:審神者名 桜

隊長:小狐丸

弐番:蜂須賀虎徹

参番:燭台切光忠

四番:信濃藤四郎

伍番:鶯丸

録番:鶴丸国永


相手方

三日月宗近

一期一振

鶯丸

鶴丸国永

江雪左文字

加州清光



「主様、行って参ります」
「こまる、皆も頑張ってね!」
「相手の俺に、驚きを与えてくるぜ!」
「自分と闘うというのも、大包平なら喜ぶだろうな」
「大将は安心して待ってて!勝ってくるから!」
「かっこよく決めてくるよ、桜ちゃん・・・うーん、呼び慣れないなぁ」
「偽名なんだ、仕方がないだろう。本物の切れ味、見せてくるよ」


嬉々として戦闘用の空間に入る皆を見送る。
華(桜)は観覧用の椅子に座り、皆の様子を見守る。
隣の椅子に、相手の審神者が腰かけた。
一見して、派手な洋服に濃い化粧の二十代後半といったところか。


「今日はこんなに小さな審神者が相手なのねえ」
「よろしくお願いします!」
「ふふ、こちらこそ」


何故だろうか、この審神者から良い感情を覚えない。
どこか、そう。目が笑っていないのだ。

何かを、怒っている?


「ねえ、お嬢ちゃんの隊長・・・小狐丸?」
「はい!そうです」
「・・・どこで手に入れたの?鍛刀?」
「墨俣の――」
「ありえないわ。私もう何度もそこへ出陣させてるのに」


ひしひしと伝わるのは、負の感情だ。
そういえば、相手の刀剣男士達、特に清光が元気のなさそうな雰囲気だった。


「ねえ、お嬢ちゃん」
「なん、ですか?」



――――小狐丸、私がもらってあげる


言われた言葉を理解することが出来なかった。
もらってあげる?・・・こまるを?

にっこりと笑っているが、怒りに満ちている。
華は椅子から立ち相手と距離を取ろうとした。

が、待っていたのは体中に受ける痛み。
椅子ごと地面に倒されたのだ。
遠くで此方の様子に気づいた政府の人間が慌てているのが視界に入る。
だが、髪を掴まれて無理矢理立たされ、痛みに目を閉じるしかなかった。


「寄越しなさいよ!!あと小狐丸だけなの!!!」
「いた・・・ぃ!!」
「ガキの癖にレアな刀剣連れちゃって!!何あの短刀も!見たことないし!!」
「やめ・・・やめてください!」
「いいわ、私が全部もらってあげるから!」


心配しなくていいわよ、小狐丸も喜ぶと思うわ!
あんたみたいなガキ相手よりも大人の女の方が断然!!



――――たかが狐の刀なんだから!!


バチン、と乾いた音が響く。


目を見開いて固まる女審神者。

華が相手の頬をひっぱたいたのだ。


「こまるを・・・馬鹿にしないで!!!」
「・・・ん、な・・・?」
「こまるはあげない!!わたさないもん!!!」
「叩いたわね!!!このガキ!!!」


暴れる女を政府の人間が抑え込む。


「長様!!お怪我は!?」
「長?・・・・・え、なに・・・どういうこと?」
「君、霊感強くないからなあ。気づかないよな」


相手の鶴丸がどこか馬鹿にしたような物言いで審神者に告げる。
演練を中断して此方へ来てくれたようだ。
江雪が膝をついて華を心配そうに気遣った。


「血が出ています・・・・」
「・・へい、き。主さん叩いて、ごめんなさい」
「!・・・貴方は、優しいのですね・・・」


相手の江雪に頭を撫でられ、微笑まれた。
その後ろから慌てた様子で駆け寄ってきた小狐丸に抱き起される。


「主様!!!お怪我をされて・・・・・何をされたのです?」


低く唸るような声で相手を睨む小狐丸に、
女審神者は「ひっ!?」と小さな悲鳴を漏らす。
しかし、威圧にも負けないように羽交い絞めにされながら女は叫んだ。


「そ、その子が私を馬鹿にしたのよ!!!」
「・・・・・は?」


此方と相手の鶴丸が怪訝そうに女を見やる。
両者、何言ってんだこいつと言わんばかりだ。


この小さな娘がそんなことを言うものか
華がそんなことをするわけがないだろう


と、思考も合致している程。


「小狐丸も持ってないなんて可哀相だからあげるっていってたわよ!!!」


相手の男士らは女の一言で状況を理解したようだ。
江雪と鶯丸は溜息を吐き、鶴丸は額を抑えて天を仰いで
一期一振は泣きそうな清光の肩を叩いて、
三日月宗近は目を細めて扇子で口元を隠した。


「主様はそのような事を申す訳がありませぬ」
「まあ可哀相な小狐丸、騙されてるのね」
「これ以上の侮辱は人間とはいえ許しませぬぞ」
「侮辱?私はその子に叩かれたのよ!?」
「大人気のない・・・申しましょうか」


貴女のような人間の所になぞ、狐は行きとうありません。
何故現れないのか、考え直す頭があれば良いのですが


小狐丸の言葉に何か叫んでいたが、暴れる女は政府の人間によって
引き摺られ演練の場から姿を消した。


「お嬢、どこやられた?」
「・・・・」
「大将?大丈夫??痛いの?」
「俺は空木を呼んでくるよ」
「僕も一緒に行くよ。華ちゃん待っててね」
「・・・華、俯いてどうした?」


「・・・・主様?」


皆が心配そうに見つめている中、
華は顔を上げることが出来なかった。
自分でも驚いたのだ、どうして手を出してしまったのか。
怒ることなんて、滅多にないのに。

体中に感じる痛みと、追いついていない自分の感情の処理。
ぺろりと擦りむいた腕を舐められる感触に華の顔は漸く上がった。


「・・・主様にお怪我をさせてしまいました」
「・・・・こまる・・」
「話からして、この狐のせいで負った傷なのでしょう」
「・・・・違うよ」
「主様・・・嘘を申しても、狐にはわかります・・」


届いていました。演練の最中でも、主様の声が。
直接ではありませぬが、聞こえたのです。


「この狐は、幸せ者です」
「こまる・・・」
「主様・・・狐は主様が死ぬまで、御傍におりますれば・・・」


ぎゅうと抱きしめ、駆けつけた空木に事情を説明するため
華を抱いたまま、皆でその場を後にした。










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