一期一振を隊長に、

鶴丸国永

江雪左文字

鶯丸

鳴狐

不動行光


六振で大阪城に乗り込むことになった。
祈祷場の扉を石切丸が開け、中に入る。

大鏡の前に小狐丸は華を下し、一礼した。


「どうか、御無事で」
「うん」
「華、信濃の時も然り、俺に出来ることはないが、此処で帰りを待っている」
「うん・・・いってきます」
「鶴、頼んだぞ」
「任せてくれ。ほれ、行くぜお嬢」


大鏡の前で深く息を吸い込んで、
目を開き両手を翳した。
手に何も持ってはいないが、
どこかから鈴の音がシャラリと鳴り響く。

大鏡から光が溢れ、六振と華はその場から姿を消した。



――――――・・・・・。



信濃を救出に来た際よりも、構造は広くなっているようだ。
辺りを見回し、華は指をさす。


「あっち」
「不動、お前はお嬢から離れるなよ」
「ひっく・・・・わぁってるよ・・・」


静かに奥へと進み、淡い光が視界に入る。
格子の牢屋の中に、人の姿はない。


が、華には必死で格子を壊そうとしている三振の姿が見えていた。
頭に浮かぶ名前、それを紡げば彼らの姿は皆にも見えるだろう。


「いち兄ぃ、三人いるよ」
「!・・・見えるのですか?」
「うん。でも、まだ遠いからお名前が見えないの」
「江雪、君は後ろを」
「ええ・・お任せを・・」
「俺は、・・・そこの奴で遊んでいようか」
「歓迎会ってかぁ・・・ひっく!」


気配を察知されたのか、敵が牢の前に現れる。
数が多い、これも夢でみたのと同じだと一期は
嫌な汗が流れるのを感じた。


「華様、我々が敵を抑えている間に、不動と」
「うん・・・行こう!」
「おらっ、のっかれ!!」


不動に背負われ、それを合図に皆が散る。
一期と鶴丸が目前の敵を斬り道を開く。
増援の入る道の前で応戦している鶯丸の加勢に
二振りはそのまま駆けた。


「・・・ふっ!!」
「江雪殿!鳴狐もお手伝いしますぞ!!」
「有難う御座います・・・戦いは嫌いです・・・が・・」
「・・・華の為・・・皆の為・・」
「そうです・・・」


格子牢に近づくにつれて声も聞こえるようになった。


「はよ開けんね!!」
「この鎖がきれねえと刀ぬけねえんだよ!」
「兄ちゃん駄目だ!この牢屋頑丈すぎぃ!!」
「諦めんな!包丁!!」
「何か方法はなかね?・・・ん?」
「・・・あれって・・」


包丁藤四郎!!

後藤藤四郎!!!

博多藤四郎!!


名を呼ばれたことで三振の本体を繋いでいた鎖が薄くなる。
それを後藤は見逃さず、必死で引っ張る。
包丁と博多も後藤の鎖を引き力を込めた。


「すぐにだしてあげるからね!」
「誰か知らないけど、救援感謝!」
「馬鹿!!この霊気、審神者ってやつだろ!!」
「じゃあ、向こうで戦ってくれてるの・・・いち兄で間違いなかね!?」
「泣いてる場合じゃねえだろ博多!いち兄に怪我させる前にここでねえと!!」


信濃の時と同様に、鎖は強い邪気に満ちていた。
前回のこともあり、華は格子牢の扉を開けて
鎖に手を翳して霊気を送り込んだ。


まず、一つ!


後藤を捕えていた鎖が切れて、不動の背後に迫る敵に刃を向けた。


「っ・・・!?」
「救援、感謝するぜ!俺は後藤藤四郎だ!」
「・・・ひっく・・・不動行光・・・今のは貸しにしねえぞ!!」
「おうよ、暴れるぜ!!」


二つ!!


「博多兄ちゃん!俺も手伝ってくるよ!!」
「審神者・・・名前ば教えちゃんない」
「華っていうの・・・もうちょっと、待ってね・・・」
「!・・顔色悪かちゃ・・・休んだ方が――」
「時間が、ないの・・ここにいられるじかん・・・」


夢とは違い、敵の数は減っている。
それに内心安堵しつつも一期は横目で
牢を確認した。まだ中に華が残っている。
それに、弟の姿も確認できた。
背に軽く衝撃がきたことで、意識をこちらに戻す。


「国永殿!」
「・・ふぅ、流石に・・・多いな」
「国永殿?・・・まさかお怪我を・・」
「一期、そろそろ焦る時みたいだぜ」


敵の術による炎だろうか、ちりちりと少しずつ燃えはじめ
場が微かに白んできている。


「鶯丸!!無茶をするな!」
「大丈夫だ。大包平なら喜ぶだろうが・・この状況は流石にないか」
「国永殿!戦線離脱を!!」
「俺はこの中で一番練度が高いんだぜ?見くびってもらっちゃ困る!」
「国永殿!!!」


一期の静止を振り切り、鶴丸は跳躍し敵の背後に着地する。
そのまま抜刀し腕を斬りおとした。
次の敵に向かう際に翻った衣の隙から、僅かに見えた赤に
一期は自身の目前に迫る大太刀を忌々しげに睨みながら刀を振るった。


三つ目!!


「華!!俺の背に!」
「へいき・・・早く、出なきゃ・・・」
「そんなふらふらで平気な訳なか!!!ッ後藤!!」


呼ばれ不動と後藤は牢を見て状況を理解したようで
敵を斬り倒し走り寄ってきた。


「後藤!あいつらのとこまでおぶって走る!援護しやがれ!!」
「おうよ!博多!包丁!!いくぜ!!」


牢から皆が出て時間も経たず、その場は炎に包まれた。
冷や汗を流しつつ、出口に向けて走る。
鶯丸は皆の動きを確認し、潮時とばかりに刀を納めて不動に駆け寄った。


「援護する!先に行け!!」
「うぐいす!」
「華、後程平野と茶をしよう、不動は酒でいいか」
「わかってんじゃねえか!ひっく・・・遅れんなよ!!」


後藤らが逃げるのに気づいた敵は江雪らを無視し
彼らに向かって太刀を向けて走る。
鶯丸はそれを相手に道を塞がれないように援護した。


「闘うということは、こういうことです・・・っ」
「・・・相手は、こっち・・・!」
「さあ鳴狐!!渾身の一撃を!!」
「叔父上!!!」
「・・・皆・・・先に・・・」
「華様をお願い致しまする!!!」
「頼みましたよ・・・!」


白む空間、残された時間は少ない。
敵を防ぎつつも皆出口へと近づいている。


しかし、・・・足りない



「!・・おつる?」
「あ?」
「ふどう・・おつるは?いち兄ぃも・・・」
「いないのか!?」
「・・・!あそこです」


出口の目前まできて、華はふと姿の見えない二振りに気づいて声を上げた。
皆が振り返り、炎の中に視界を凝らせば、大太刀と応戦している一期の姿があった。
その傍には焼け落ちた柱と、白い着物。


皆が状況を理解する前に、華はその場へと転移していた。
転移の札を使った様子はない、何をしたのか見当もつかないが
危険であることだけは理解できた。


「華!?・・・ッ!!」
「おつる!!」


傍に現れた華に困惑しつつ、一期は何とか大太刀の腕を斬りおとした。
柱に足を下敷きにされている鶴丸は動く気配がない。


「おつる!!!起きてッ!!!!」
「自分を庇って、負傷されたのですっ!!その前にも手傷を負っていたようですが、戦線離脱を聞き入れてもらえず・・・ッ」
「・・・ッ!!」
「・・・・え・・・・ッ華?」


ペチンッ!!!


本丸で暮らしてきて、華が誰かを叩くことなど
今まで見たことがなかった。


「鶴丸国永!!!!起きなさいッッ!!!!!」




大粒の涙をぽたぽたと落としながら、
華は怒った表情で鶴丸の頬をひっぱたいたのだ。


咳き込み、薄ら目を開けて鶴丸はぼんやりと視線を巡らせた。


「げほっ・・・い、・・ってぇ・・・顔は・・怪我してねぇはず・・なんだが・・」
「おつる!!!」
「・・・!・・・お嬢・・・・っ・・ああ、ったく・・・そういう、ことかッ・・・」
「国永殿!!起きられますか!!」
「ぐ・・・っ・・・起きて、やるさ!!」


華を視界にいれた鶴丸は痛みを堪えつつ、柱をどかそうと試みた。
しかし、負傷していることもあってか、柱は動く気配がない。


「そっち押せ!!」
「博多、そっち・・・」
「まかせときんしゃい!!」
「いっくよー!!」
「お前ら・・・っ・・・!?」


炎を潜り抜けて戻ってきた鳴狐らは
柱を押して隙を作る。それを一期は引っ張り立たせた。


「一期は弟を・・」
「鶯丸・・・何を?うぁっ・・!?」
「皆様!!お早く!!!」
「俵担ぎたぁ・・・驚いた・・・っ!」
「舌を噛むぞ・・・」


燃え盛るその場を背に皆は出口に向かって駆け抜けた。



こうして、大阪城より新たに三振の男士を救出することに成功した。



――――――――
おまけ


「・・・・お嬢が口をきいてくれない・・・」
「仕方がないんじゃないかな」
「歌仙・・・光坊も伽羅坊も・・・まだ怒ってるか?」
「僕が食事を持ってきたことで、わかるだろう?」
「・・・・・あー・・・」
「僕も、怒っているんだよ?華が怒ったところなんて見たことがないんだ」
「・・・・・・・。」


鶴丸は頬に手を添えて、目を伏せる。


いてぇ・・・。


手入れ部屋からは、まだ暫く出られそうにない。










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