三日月宗近の朝は早い。
まず、彼の着物は構造上一人で着ることが難しい。
ある程度まで着つけて、後は主に獅子王が布団を上げた後に
手伝ってくれるのが日々の流れである。


「・・・・!・・・華?」
「おはようございます!」


にこにこと着物の支度をしている華に
寝起きの頭が一気に覚醒した。
こんな早朝に、まだ寝ているだろう時間だ。
何故この離れの部屋にいるのか。


「どうかしたのか?こんな早くに」
「今日はね、特別なの!」
「?・・特別」
「うん!」
「ふあ・・・じっちゃんおは・・・・・・華?」
「しし兄ぃ、おはよう!」
「おー、おはよう!偉いな華」
「ふふー!華もお手伝いしにきたの!」
「そっか、んじゃあ俺布団あげっから、三日月頼むな」
「うん!」


理解の追いつかぬまま、賑やかな朝を迎えた。


―――――・・・・・。


「歌仙、馳走になった。今日も美味だったぞ」
「恐悦至極、口にあって良かったよ」


茶を啜り、さて膳を戻しにいこうと
立とうとしたが、ひょいと膳は目の前に浮かび


「華?」
「華が持って行くね!」
「?・・・俺がやる。華は――」
「いいの!今日は華がするの」
「(何事だろうか・・・?)」


朝から何かと世話を焼いてくる華に
自分は何かしたのだろうかと考え込んでいれば
鶴丸と小狐丸と視線が交わった。
二振りは何が面白いのかくつくつと笑い、
自分たちの膳を持って出て行った。


――――――・・・・。

内番の仕合いの間も道場でずっと華は三日月を見ていた。
打ち合う間、小狐丸の笑みが気になって声をかけたのだが


「今日はこの狐も、遠慮というものをしております」
「どういうことだ・・?」
「主は幸せ者じゃな・・三日月・・・妬ける」
「わかるように話さぬか小狐」
「ほらっ・・足元をすくいますよ!」
「ッ・・・口を割らせてみようか」


結局答えはでないまま、いつのまにか姿を消した華に
直接聞いてみようと判断し、三日月は部屋へ向かった。


しかし、今剣に道を塞がれていくことは敵わなかった。


「がまんですよ、三日月」
「今剣・・・そなたは知っているのだな」
「はい!わるいことではないので、もうちょっとがまんしてください!」
「たーいしょ!何作ってるの?」
「しなの・・・ないしょ!」
「えー、教えてほしいなぁ・・・」
「ふふー。もうちょっとー」


部屋から聞こえる楽しげな娘の声。
理解出来ないことに悶々とする自分。


「南蛮語で、さぷらぃずっていうらしいぜ?」
「鶴・・・」
「楽しみは我慢すればするだけ、いいもんだ。その間は堪えるがな」
「華を理解出来ないのは・・・父としてどうなのだ・・・ッ」
「思いつめなさんな。お嬢の方が物凄く悩んでたんだぜ」
「何?・・・悩んでいたのか?」
「ああ。その答えが、今日のこれだ。もう少しだけ待ってやれ」


――――――――・・・。

夜、風呂に入り少し涼んだ後に、
三日月は今日の事を思い返しながら自室へ向かっていた。


朝のことから、今日一日何か作っていた時以外
華は自分から離れずに、茶を持って来たり
肩をたたいたり、あれこれ世話を焼いてきた。

ひょっとして、自分に悩みを打ち明けるきっかけを
捜す為にああして行動していたのではないか?
ならば、何故苦しんでいた娘に気付いてやれなかったのか。
あれが華なりの救いを求める行動だったのだとしたら


負の方向へ思考が向かう内に
離れの自室へついてしまった。
部屋に入れば、行灯が灯っていて


枕元に綺麗に包まれた何かが置かれていた。


「・・・・これは」


触れてみて、すぐにわかった。
これは華の霊気を纏っている。
机に視線を向けると、手紙も置いてあった。


包みを開ける前に、先に手紙を読むことにする。



三日月へ

いつも、華を見守ってくれてありがとう。
いつも、優しく撫でてくれて、いっぱいだきしめてくれて


いっぱい、好きだっていってくれて、ありがとう


空木さんに、現世には父の日があるって聞きました。
この本丸にはないかもしれないけど、何かしたくなったので

思い立ったら吉日だっておつるがいいました
なので、父の日をがんばることにしました

三日月が何がほしいのかわからなかったのと
いろんな人に何をすればいいのか聞いたら、
現世では肩たたきとか、お手伝いをするんだって。

だから、おもいつくこと全部やってみることにしました。

三日月がよろこんでくれるといいな。





包みにもお手紙があるから、みてね。


華より



手紙を机に置いて、三日月は包みを丁寧にあける。


「・・・・!」


白い御守。
三日月と、審神者を意味しているのだろう模様と、
花の刺繍が入れられていた。


小さな紙に書かれた文字に、三日月は御守を握りしめて
足早に華の元へと自室を後にした。





華のとと様になってくれて、ありがとう。


                       大好き


書かれた紙を、三日月は御守に入れて――――




―――――――――――・・・

父の日おめでとう。










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