鳥居をくぐった先は、審神者の土地の森の中。
それほど離れていないのだろう。
微かに届く煙の臭いと爆音に皆が屋敷の方角を見た。


「孫様!ここからは危険です。離れずに・・・」
「うん・・・わかった」
「行きますよ・・・」


どうかこの不安が的中しませんように――――。



―――――・・・・。



「・・・・なん、だ・・こいつっ」
「下がりなさい、同田貫」
「っまだ、やれ・・・」
「同田貫・・・。」
「くっそ・・・・っ」


審神者の前には、長谷部が構える。
同田貫は脇腹をおさえながら隅に移動した。
どうやら他の部隊を相手にせず、
何等かの方法でここまで移動してきたのだろう。
審神者の目の前にいるのは、黒い影の人型。
赤く禍々しい光りを纏っていて、気分が悪くなる。


「何者!審神者様の御前だぞっ」
「・・・長谷部。無駄だ、そやつは・・・」


影の人型は、光りを沈めて、ゆらりゆらりと色を取り戻しながら
審神者に向かって歩を進める。
構えを解くことはしない。警戒し、神経を集中させる。


人型は、美しい着物を着た女になった。
長い黒髪が顔を隠している為、表情は窺えない。


「・・・お久ぶりですね・・・」


――――母上様。


「化物になってしまったお前は私の娘ではない」
「まあ、化物になってしまったのはあの餓鬼のせいではないですか」


次期審神者になるはずだった私から霊力を奪い、
このような醜い化物にしたのは、紛れもなく


私が産み出してしまった餓鬼のせいで・・・・


「あの子は何も悪くはない。霊力がなくなったのも―――」
「黙りやれ!!憎らしい、憎い憎い!!!」


ミシミシと屋敷が軋み地鳴りが起こる。
成程、審神者が何故孫様を此処から遠ざけたのか
漸く理解することができたと、そして。
改めて、審神者と孫様を守らねばならないと。


「ワタシガ・・・審神者に・・・ナル!!!」
「・・・私を殺しても、審神者にお前はなれやしない」
「ウルサイ!!!」
「審神者様!!お守り致します!!」


女に有るまじき力で長谷部の刀は受け止められた。
だが、怯む訳にもいかない。主の為、孫様の為。


「お前も・・・私ノモノにナルンダ!!」
「っ・・・なんだこれは・・・!!」
「長谷部っ、離れなさい」
「はっ!」


一度攻撃を流し、その際に身を翻して距離を取る。
刀を握られている間に、ぞわぞわと赤黒い光が
腕を伝って浸食するように這い上がってきたのだ。
今もびりびりと痺れる感覚が残っている。
審神者を母と呼ぶ女は叫び声を上げて突っ込んでくる。


『臨兵闘者皆陣裂在前・・・―――』


その動きが、まるで石化したように突然
ぴたりと止まった。



『おん、きりきり、おんきりきり、おん、きりうん、きゃくうん―――』
「この・・・っおのれええ不動金縛りの法カ!!」


女は忌々しげに審神者を睨んでいる。
審神者は顔色一つ変えない。


「お鶴、三日月・・・斬り払いなさい」
「!・・・わかった」
「承知した」



『高天原に神留座す。神魯伎神魯美の詔以て。』


石切丸が汗を滲ませながら、懸命に励んでいるのが審神者には伝わっていた。


『皇御祖神伊邪那岐大神。』

だが、祈祷場のまわりは炎が迫っていることや


『筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に』


太郎と次郎らが奮戦していることまでは、


『御禊祓へ給ひし時に生座る祓戸の大神達。』


見通すことが出来ない。


諸々の枉事罪穢れを拂ひ賜へ清め賜へと申す事の由を


天津神国津神。


八百萬の神達共に聞食せと恐み恐み申す―――


「この程度で・・・ワタシガ消えるト思うナ!!」


掛まくも畏き 伊邪那岐大神


「殺してやる!!母上も・・・餓鬼も!!」


筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に


「縊り殺して・・・っワタシガ」


禊祓へ給ひし時に成り座せる祓戸の大神等


「石切丸にはっ近づけさせないよ!!アタシを先に倒しなァ!!」


諸々の禍事 罪 穢有らむをば 


「次郎!!炎を薙ぐぞ!!」


祓へ給ひ 清め給へと白す事を


二つの刀が、女の首の左右に一本ずつひたりと当たる。


「悪く思わないでくれよ。婆様と孫様の為だ」
「・・・さらばだ」



――――聞食せと 恐み恐みも白す。










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