日が落ちて涼しげな縁側。
皆寝静まる頃。


「・・・・ひっく・・」


何を見るでもなく、甘酒を片手に一振り佇む刀剣男士。
彼は最近本丸にやってきた。

本丸の主である少女が何を思ったのか、
長谷部に本能寺へ行くように告げたのがきっかけだった。

歴史修正されそうになっている本能寺は
炎に包まれていて、男士らは歴史を護るために行動した。


その場に派遣されたのは、長谷部含む四振、

江雪左文字

太鼓鐘貞宗

薬研藤四郎


そして、審神者である華。

本来ならば危険を伴う故に連れて行くことはないのだが
今回は何やら特殊な結界が敵側から貼られているらしく
それを解除するために同行することになったのだ。

彼らは華を護りつつ、華に護られつつ
織田信長がいるであろう場所へ駆けた。


燃える障子の前に佇む長髪の少年
彼の姿は、最初華にしかとらえることはできなかった。


火の粉によって喉が焼けているのか
それとも叫びすぎての結果か


涙をぼろぼろとこぼしながら、少年は此方に振り向くことなく
障子の向こうにいるであろう男の名を呼び続けていた。
炎に飲まれそうになっている本体を華は火傷も気にせずに拾い上げて


「ふどうゆきみつ!!!」
「・・・ッ・・!?な、んだ・・・お前・・・?邪魔すんな!!!」
「ッ・・ぅ・・!?」
「華様!!!貴様ぁ!!」
「だめ・・ッ・・はせべ・・っ・・ふどうつれてかえるの!きっちゃだめ!!」


名を呼んだことで皆に視認されるようになった彼
不動は混乱のせいもあってか、華の掴んだ手を振りほどくために
もがいて突き飛ばしたのだ。それを長谷部が怒りのあまり抜刀するが
華の言葉に渋々刃を納めた。しかし不動を睨むのは止めなかったが。

暴れる彼を無理矢理担ぎ上げて、皆で本能寺を去る。
不動をこのままにしてしまえば、彼が信長の自害を阻止してしまう。

それは、避けなければならない。

敵の狙いは、不動の手によって信長を生かし
本能寺の変を改ざんするのが目的だった。

そんなこととは知るわけもなく、不動は自身の行動を邪魔されたことを
本丸に戻るまでの間、華に対して怒りと暴言と共に吐き続けた。


そして、今こうしている時間までの間に
華と接触を避けてきたのだ。


「大切な人を護りたいって思うことがなんで悪いことなんだよ!!!!」
「わるいことじゃないよ・・・でも、だめなの・・」


おだのぶながさんが死んじゃった歴史は、変えてはいけないの


「お前にゃわからねぇのか!!!わかるわけもねえよな!!んなチビだもんなあ!!!」


ぬくぬくとどうせ大事にちやほやされて生きてんだろ!!!
失う痛みや苦しみなんてわかるわけが――――


叫ぶ不動がその先を言えなかったのは
意外にも長谷部ではなく、やり取りを聞いていた

宗三左文字の拳一発による妨害だった。
そのとき、長谷部も目を見開いて唖然としていた。


「・・い・・てぇ・・・・宗三?・・・」
「・・・不動・・・いい加減になさい」


拳を震わせて、珍しく怒りを露わにしている宗三に
周りは静まり誰も動くことが出来なかった。


「貴方こそ、彼女を理解出来やしない」


受け続けた言葉に涙することもなく、
怒りを露わにするでもなく


この小さな主は、全てを聞いて受け入れようとした。


見た目では想像もつかないだろう。


この小さな主は、大切な人を亡くし
目の前で失い、己を殺そうとするまで病んだ。


彼女も、自分に理解できない苦しみをまだ持っている筈だ。
子供だというのに、それを母親と同様に隠しているのだろう。


「相手を理解しようとせずに、自身を理解しろというのは、無理な話です」


子供のように喚き散らすなんて、見っとも無い。
目の前の少女以下です。見苦しい。


「華を傷つけるのであれば、容赦はしません。」
「そうざ・・なぐっちゃだめだよ・・」
「いいえ、華。言葉だけでは理解出来ないと判断したからですよ」
「どういう、こと?」
「拳で語るということも、必要なんです。嗚呼、貴女には必要ないですから」


――――――・・・・

「・・・くそ・・ひっくっ」


殴られてから時間は経っているのに、
まだ感覚が残っている気がする。

冷静になって考えてみれば、確かにあの小さな主は
自分の言葉に傷ついている顔をしていた。
何かを思い出したような、大切なものを、失ったような。


宗三が言いたかったことが、わかった気がする。

けれども、納得出来ないのも事実。


もし、あの主も大切な人を失ったのだとして

助けたいと思わないのだろうか?

もしも歴史を変えることが出来る力があるならば

その力でやり直すことが出来るのに

現に主は、その力を持っている。自分を本能寺から救ったように。


時を飛ぶことができるのに。


「ふどう・・・?まだ、起きてるの?」
「!・・・餓鬼がこんな時間に起きてる方がおかしいだろうがぁ」
「・・・霊気の乱れをかんじたから、ここにきたの」
「・・・・そうかよ」
「・・・・ごめんね、ふどう」


ふどうの嫌なことして、ごめんね?
そうざにもちゃんとお話したから


「・・・・」


本能寺から此処へ来るまでの間に吐いた暴言は
思い出すことが出来ないほどだった。
それだけぶつけて痛めつけているのに、どうして


このちびは、こうなんだろう?


「・・・・火傷・・・治ったのかよ?」
「!・・薬研兄ぃにお薬ぬってもらったから、綺麗になくなるよ」
「・・・・・そうかよ・・・」
「しんぱいしてくれて、ありがとう」
「・・・・・お前・・・」


正直に言って、なんて馬鹿な餓鬼だと思う。
けれども、少なくとも今は・・・


この馬鹿な奴を、理解してみたいと、思った。



――――――――――
後書き

歴史改変の恐れを察知した華は
脳裏に本能寺が浮かび、長谷部に声をかける。
改変のきっかけは上に書いたように不動の気持ちを
利用しようとする敵の策略。

まだどうして?が消えない不動だけれども
傷つけまくった自分を理解しようとしてくれる
華に、自分も理解してみようと頑張る。

書いてないですが、この後に
太鼓鐘と仲良くなります。
それから少しずつ華や周りを理解する気持ちが
成長していくことになります。








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