「良いか華、体調が悪くなればすぐに言うのだぞ?それから――」
「大丈夫!お約束するから・・・」
「小狐丸、華を頼むぞ。」
「ええ、主様、参りましょう・・・」
「いってきます!」
「気をつけてな」


あれから熱も下がり、漸く華は外出の許可が出された。
とうに出てもよかったのだが、鶴丸の「暫く外出禁止」を筆頭に
誰にも言わずに勝手をして心配をかけたお仕置きという名の
心配過ぎてまだ外に出したくない勢による圧力によって
華は厠以外で部屋から出るのを禁止されていたのだ。


流石にもういいだろう、外に出ることも体には大事だ。

という薬研と政府の医者の言葉によって、
本日小狐丸同伴の元、敷地の散歩に出ることになったのだ。
門の前まで三日月が見送りに来ていて本人も同行したがっていたのだが
生憎の遠征が控えている。渋々といった形で時間一杯まで
華に気をつけるように、無理をしないように、
治ったといえ油断をしないように。

御小言まっしぐらである。


ぎゅうと三日月に抱きついて


「ととさまも、気をつけてね?」
「!・・あいわかった。楽しんでくるといい」


髪を撫でて、微笑み三日月は華と小狐丸を見送った。


―――――・・・・・。


「千々に咲き乱れておりまするな」
「うん!綺麗だね」
「主様がその場に居られるだけで、一入に美しく感じられます」


手を繋ぎ、歩調を合わせて小狐丸は華から視線を外さない。
勿論、周りの警戒も怠りはしないが、それでも熱が出ていた原因は結局わからず。
いつ何時また倒れたらと、心配がないわけではないのだ。


突然ぴたりと足をとめて、一点を見つめる華に小狐丸は小首を傾げる。


「どうなさいました?」
「・・・・ぶし?」
「・・・武士???」
「こまる!!あっち!行こっ」
「っわ、わかりました。では小狐がお連れ致します故」


ひょいと華を抱き言われる道を進む。
一体何がいるのやら、華の表情は嬉しそうにしている。
何が見えた?敵ではないだろうが。


茂みをぬけて、小狐丸の視界にも華の目的のぶしとやらが目に入った。
白頭巾を被り、下駄を履いて帯刀しているその人物は


「ぶしー!!!おかえりいぃ!!!」
「!・・・っおお!!孫様ではないか!!」


大声で此方に手を振り返し駆け寄ってくる男。
神気を感じ、さらに近づくにつれて審神者の霊気も感じたことで
小狐丸はそっと自身の柄から手を離した。


「カッカッカ!!相も変わらず小さいのう!!」
「ふふー!!ぶしお山からかえってきたの?」
「うむ!良い修行であった!」
「・・・主様・・」
「あ!ぶし!こまるだよ!!」
「拙僧は山伏国広と申す!そなたは刀剣男士であるな!」
「小狐丸と申します。・・・審神者殿の頃から?」
「うむ!主殿に許可を貰い!今まで修行に出ておった!!」
「・・・ぶし・・、ばっちゃ・・は」
「・・・すまなかった。拙僧が山から下りたのは、その事よ」



主殿の霊力を感じなくなり、この山に満ちていた空気が
変化しているのに気付いてな。察してはおったのだが、
下れぬ事情があったのだ。丁度孫様もおられたのは
偶然の産物ではないのやもしれぬ、これも仏の思召しであるか。


「どういうこと??」
「刀剣が山の中に現れた」
「それはどういうことじゃ・・?」
「拙僧が修行をしておった近くの社の中」


毎日祈願をし、何かしら地蔵に備えておったのだ。
すると、一振りの太刀がいつのまにか現れてな。
拙僧が触れるには神々しく、孫様を呼びに行こうと思いたったのだ。


「ついてまいれ!」


―――――――――・・・・。


近づくにつれて、古めかしく痛んでいる部分もあるが
どこか神聖な雰囲気の漂う社が見えてきた。
小狐丸に下してもらい、華は一人社に近づく。
一度後ろを振り返ると、山伏が頷いている。


「何かあれば、いつでもこの狐めが動きます故・・」
「うん。見てくるね」


薄暗い社の中、奥に遠目から見てもわかる程の、
美しい一振の太刀が見えた。


「・・・・おじゅず?」


その太刀には紫の数珠が白い鞘に巻き付いている。
頭に浮かぶ刀剣の名前。名が浮かぶと言うことは、この刀も。


「数珠丸恒次?」
「・・・私の名を呼ぶ女童は、審神者というものですね」


一瞬の閃光、舞う桜吹雪。
長く艶やかな黒髪の先は、白。
閉じられていると思っていた目は華をしっかりと捉えていた。


「山の空気が清らかさを増し、生物達が穏やかに生を営んでいました」


それに引き寄せられ、此処に・・・。


「おじゅず、お外に出よ!」
「・・・はい」


この小さな女童から感じる霊気と神気。
そしてこちらを遠目に伺う小動物らが一緒に行けと囁く。


「行って参ります・・・」



こうして、一振の帰還と共に
新たな一振を迎えることとなった。









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