「蛍丸、大丈夫?」
「うん・・でも・・おかしいよ」
「確かに・・・手薄だ・・」
「華が何かしたとかじゃないよね」
「霊気の気配もない。俺達みたいに橋を通ったんじゃねえのか?」
「三日月さんが言ってたよ。華様は結界で身を隠すことが出来るって」


ただ、刀剣にも姿は見えなくなるって言ってた。


「ならば、この橋にいた敵には見つからずに通ったのやもしれんな」
「・・・!」
「どうしたの?蛍丸」
「・・・・国俊の声がしたっ・・・こっち!!」


胸騒ぎがする。姿も見えないし、自分は今一緒にいる皆よりも
偵察は苦手なのに、聞こえたんだ。国俊の声。


それに・・この声は・・・


夢中で駆けて目にした光景に、蛍丸は目を見開いた。
傷だらけになっている二振の姿。
拳を握りしめて、唇を噛みしめ長曽祢らの静止の声を背に走る。


華の前に立ち刃を交える愛染の目が
対峙する明石の後ろに浮かぶ影に気づいて見開く。
怪訝そうに眉を潜める苦悶の表情の明石。
背後の影は、禍々しい姿をした敵の槍だ。


狙いは華か?否、違う!!


槍は明石諸共、愛染も華も貫くつもりだ!




「「ッ・・・国行ッッ後ろ!!」」




「ッ・・・・・―――ッはぁ!!?」


「華!!!!?」


愛染の服を掴み自分の後ろに転がせて
明石に守と書かれた札を投げつける。
片手は槍に向かって翳すその姿に、明石は動揺した。


まさか、この娘は自分も助けようとしてる?
殺そうとしていた相手だというのに。


駄目だ、今から振り返り槍を刀で受けることは出来ない。



ほんまに、ちっこいのは手のかかるッ・・!!!


槍が華を貫くことも、愛染を貫くこともなかった。

自身が地面に倒れて、愛染の隣に転がっていることに、
そして投げた筈の札が自分たちと影の間に浮いているのに
華は驚き、覆いかぶさる影に視線を向けた。


ぽたりと落ちてきたのは、赤色。


「ッ・・・あかし!!けが―――」
「・・・んのッ・・・・」


あッッッッたれ!!!!





「何しとんや!!!国俊もッ自分もや!!!」
「だ・・・だって・・・あぶな―――」
「危ないからて自分よりも刀剣優先してどないしますのん!!?」


自分が消えたら国俊も消えるんやで!!!
蛍丸もや!!・・・なんでこんなとこに来てるんか知らんけど!!!



「おま・・・華を殺そうとしてて何怒ってんだよ!!!?」
「やかましわボケぇ!!!」
「国行ッ―――!!!!」
「・・・・ッ蛍・・・帰り!!夜目きかんのにこんなとこ」
「・・・馬鹿!!!何してんだよッ」


国俊も、華も危ない目に合わせて・・・

おまけに自分も危なかったし、肩刺されてるし!!!


「何で・・・おれ・・・おれッ・・・国俊とずっと待ってたのにッ!!!」
「ッ・・・」
「なんで本丸に来ないで・・・華に刀向けてるんだよッ」


どうして敵と一緒にいるのさ!!!
ここの敵の部隊の名前、教えてもらったよ!!!
今長曽祢たちが戦ってくれてる


太平洋戦争阻止布石部隊


「それに手、貸そうとしたんでしょ」
「・・・そうや」
「で、華を殺したら俺が助かるとか言われた?」


それで俺が嬉しいって思う?
国行がここまで馬鹿だとは思わなかったよ



「俺、嬉しくないよっ!!!!」


何しようとしたかわかってる!?
さっき自分で答え出してたよね!!!


「華を殺したら俺達が消えるって・・・わかってたよね!!」
「・・・・ちゃう・・蛍・・・話を――」
「何が違うの!!国行は・・ッここにいる皆も・・・俺も・・・ッ」


自分も殺そうとしたんだよ!!!


「俺が、本来の俺が存在するようになっても・・・」



皆がいなくなるなら・・・おれは・・っそんな歴史いらないよ!!


「蛍・・・」
「馬鹿!!!!国行の馬鹿!!!!」



大粒の涙を零して肩を震わせている蛍丸を
愛染が背を軽く叩いて落ち着かせる。
その表情は悲しげで、明石は無意識に体を震わせていた。


その目が、華と合う。


「歴史をかえちゃだめなのはどうしてなのかな」
「・・・ッ?」
「・・・・だめだから・・って、政府の人は言うけど・・」


ほんとうは、華もまだよくわからないの


「・・・自分・・・長、なんやろ?そないなこというたら・・・」
「でも・・・華だって・・・こうだったらよかったのになって、思うことが・・・」



だけど、これだけはわかるんだよ。


今まで華が生きてきた全ての事。


それがあるから、「今」の華がいるんだって。


「ほたる・・あかしをゆるしてあげて?」
「華?・・・」
「あかしはね。大好きな人を、助けたかっただけなんだよ」


華も、助けてあげられたら、よかったな・・・。


ぽつり呟かれた言葉に、皆の表情が変わる。


明石には何のことかはわからなかったが、察することはできた。


この小さな娘も、大切な何かを、失ったのだと。


「あかし、華にわかるのはね」
「・・・・・」
「この悪い敵さんと仲よししても、わるいことしか起こらないと思う」
「・・・・・・・ははッ・・」


きっと、今ここで華を殺しても。
蛍丸の言うように、皆消える。
そして、存在できたはずの物が消えて、
存在し得なかったものが、残される。


――――その後は?わからない。


明石を貫いた槍が、構え直しまた狙いを定めている。


「国俊・・・一回しか言わんで」
「・・・?」


国俊を蔑にしてたんやない。
自分は一人でしっかり何でも出来る。
そやから、安心してたんや。
自分がおらん間も、蛍を守ってくれるって。


自分は、歴史を変えてでも、欲しいものがあった。


その後のことなんて、考えてなかったんやな・・・


ただ、自分ら二振りの、―――笑顔が見たかったんや。


今どこにいるんかもわからへん、蛍丸が・・・
消える歴史がなくなれば、国俊とも、一緒におられたんとちがうかって。


顕現してすぐに、思ったことは・・・願ったことは・・・


二振りが寂しくないようにせんといかん・・・それだけやった。


たった、それだけや。


「恥ずかしい話やで」


自分を顕現させたんは何者かはわからん。
誰の霊力も感じへん。けったいなこっちゃ。


せやけども・・・今はそうやな・・・


左手で柄を握り、突進してくる槍に構える。



「身を挺して、大事なもん守ってくれた・・」


ひいさんに、御礼を返さんとな!!!



「えろぅすんませんなぁ!!!」


自分、やっぱりあんたら、嫌いですわ・・・

気持ち悪いし。


すまんけど、これからはひいさんのとこへつかしてもらいます。



飛散した槍を見届けて、微笑み華に告げる。



「どうぞ、よろしゅうに・・・」




――――――――・・・・。





「39°・・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・明石殿」
「・・・すんませんでしたっ」
「・・・・お嬢、暫くどこへも一人で行かせないからな」



天下五剣、御物二振、初期刀、元お世話係に
視線だけで殺されそうになりながら、明石は深々と土下座をした。

意識を落とす前に、華から政府に連絡はしないようにと言われ
小狐丸は困惑しつつ華を抱き部屋へ運び今に至る。


事情は本丸の男士には通達された。
愛染と蛍丸らは手入れ部屋で新撰組の者と一緒だ。


敵側につき、審神者の長を手にかけようとした刀。
本来ならば即刀解処分だろう。


けれども、政府に連絡を入れないと華は言う。
さらに、愛染と蛍丸が必死に懇願してきたのだ。


明石を折らないでくれ・・・。


折るのならば自分達も一緒にしてくれ・・・と。


「可愛い自分の妹をこうした罪は重いですぞ・・明石殿」
「全く・・・お嬢の考えは驚かされることばかりだ」
「・・・胃が痛い・・」
「・・・主様は慈悲深いお方。しかし・・・次はない。肝に命じよ」
「・・・おおきに・・」
「明石とやら」


三日月が頭を上げるように言い、
明石は言われるがまま上げる。
天下五剣の強烈な怒気に息が詰まった。
この場にいる鶴丸、小狐丸以外はひやりとした何かを感じている。


「俺にも、取り戻したいと願うことは、あった・・・故に、華の言葉にも免じ今回の事は許そう」
「・・・・・・っ」
「・・・・だが・・罰は受けてもらうぞ」


その肩の傷が治るまで、な。


華が目を覚まし、容体が安定するまでの期間。



明石国行は手入れ部屋入出禁止の罰が与えられたのである。










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