「近々、取り壊されることになった故に、それまでに見せておきたいと思いました」
「・・・・気をかけてくれたのだな・・」
「正直、教えることを悩みました。ですが、やはり知っておいてもらおうと」


人は払っております。好きなだけいて下さい。
出たらこんのすけにお声掛けを。

黒いこんのすけが門の前で丸くなりくありと欠伸をこぼす。
空木は苦笑して一礼し、三日月の前から姿を消した。


森の奥深くに建つ、小さな屋敷。
そこの空間は時の流れを感じるが、本丸と似たような不思議な空間だった。
時が経ち、古くなっているその屋敷。


「・・・此処で・・・」


審神者と華は過ごしたのか。


産れたばかりの華と審神者が過ごした、隠れ屋敷。
三日月は足を踏み出した。


―――・・・・。


戸に手をかけると、どこかから声が聞こえてくる。
振り返れば、そこには懐かしい姿。


白い包みを腕に抱いて、それから視線を外すことなく
ゆっくりとこちらへ歩いてくる、審神者の姿。
その足元にはこんのすけの姿もあった。


「長様!!足元に気をつけて下さいませ!ああっ小石が!!」
「落ち着きなさいこんのすけ。そのくらいの小石で転びはしませんよ、ふふ」
「小枝が!!ああ・・・っしかし長様!あいた!?」
「ほら、こんのすけ。あなたが転びましたよ。」
「も、申し訳御座いませぬ」


消える光景。


「・・・・邪魔をするぞ」


三日月は微笑み、戸を開け中へ進んだ。


埃の積もった屋内。残された物から様々な光景を感じることが出来た。
触らずとも、浮かんでは消える光景を、三日月は目を離すことなく全て見続けた。


「すり鉢の使い方は、薬研に教わればよかったですね」
「華様!ひ・・・ひっぱらないでくださいませ!!耳がぁ!!」



「綺麗な髪ですな」
「ええ、黒ですが、青のようにも見えます」
「・・・・」
「あの方に、似るといいです」
「長様」
「・・・思うだけならば、タダでしょう」





「熱が下がりませんね・・・」
「心配にございます・・」
「爺様を呼びます。しばしお待ちを」
「こんのすけめは新しい布をとってまいります!」


「・・・・三日月・・・どうか・・」


華を護ってやって下さい・・・。


目を閉じる。


此処に自分がいることが出来たならば、どんなによかっただろうか。
だが、こうも思うのだ。この運命だったからこそ、
今の幸せがあるのではないだろうかと。


目の前で得られたはずの幸せ。


今の幸せ。


名残は惜しいが、俺は今を取る。


それが、審神者の願いだろうから。


「三日月」
「!?・・・・」


目を開けて顔を上げた。
立っているのは、審神者だ。

此方をしっかりと見据えるそれは、記憶でもなく、幻影でもない。


「・・・悩んでいるのでしょう」
「・・・ははっ、心配で現れてくれたのか」
「父、ということを、悩んでいるのでしょう?」
「・・・嗚呼。華が俺の娘だということは、頭では理解しておるはずなのだが」


どうしても、その距離が遠い気がする。
それは仕方のないことなのだと。


「ちちうえさま、とも呼んでくれるが、どこか華もぎこちない気がしてな」
「それは、あの子も同じように、悩んでいるから」


仲が悪いわけではない、嫌いなわけがない。
お互いに、歩み寄ろうとしている。
けれども、その手を引っ込めてしまう。

違いますか?


「御見通し、か」
「今までのままでも、良かった。」


けれども、やはり自覚してからは父としても見てほしい。
刀剣男士としての三日月宗近としても、どちらも。


「・・・」
「あの子は、どちらも見てくれている筈ですよ」
「嗚呼、わかっているさ」
「一つ、良いことを最後に教えましょう」
「何だ?」


本丸に戻ったら、急かすことなく、
いつものようにして、華の言葉を待って見て下さい。


距離が、近くなったと思える筈ですよ。


いつのまにか、三日月の腕の中に包みが・・・。
白い包みの中、小さな赤子がすやすやと眠る。
赤子が誰なのかは、言わずもがな。



暖かい・・・我が子を腕に抱き。
三日月は目を細めて、審神者を見た。



「貴方は・・・華の――――なのですから」



気が付けば、三日月は本丸へと帰還していた。



――――・・・・。

縁側でぼんやりと座っていて、これは夢だったのかと錯覚する。
けれども、足元で黒いこんのすけが一礼し消えるのを見て、
夢ではなかったのだと確信することができた。


「み、みかづき・・・」
「!・・ああ、華か。政府から戻ったのだな」
「うん。・・・あ、あのね・・・」
「どうした?」
「・・・・う・・・んと・・・」


本丸に戻ったら、急かすことなく、
いつものようにして、華の言葉を待って見て下さい。


その言葉を思い出して、普段と変わらず華の言葉を待つ。
着物をぎゅうと握りしめて、耳まで赤くしている華。

何か覚悟を決めたように顔を上げて、華は飛びついてきた。
しっかりその体を受け止めてやり、何事かと目を丸くする。


「と・・・とと様″!!」
「!・・・華、それは・・」
「っ夕餉!!もうすぐだからね!!」


恥ずかしそうにそう言って、華は足早に廊下を駆け抜けていった。
どこかから「廊下を走ると雅じゃないけどどうしたんだい華!?」と
慌てた声が聞こえる中、ぽかんと暫く三日月はその場を動けなかった。


「とと・・・様・・・・」



反芻し、暫く沈黙。


夕餉の準備が出来ても現れない三日月を呼びに来た男士は語る。
桜塗れの庭と埋もれた三日月の姿があったと・・・。


――――
あとがき

政府で偶然聞いた「とと様」呼び。
華だって父として三日月に甘えたいことだってある。
甘えて欲しかった三日月。距離が縮まる第一歩。
「ちちうえさま」が「とと様」に変わった日
「じじい」が「父」に変わる日







×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -