刀剣男士らの手合せや、鍛練に使用される道場。
そこから竹刀がぶつかり合う激しい音が聞こえてくる。
時刻は早朝、起きている男士は限られるだろう時刻。


「くそっ・・・!」


忌々しげに舌打ちし、竹刀を構えなおすのは長谷部だ。
汗を流し、対する相手を睨むその眼だけで殺せそうな程、
彼が荒れているのがわかる。


どうして、何故・・・・


ある日を境に抱いていた疑問。
その答えを得るために、早朝から一人道場で鍛練をしていた。
疑問を生み出させた本人が暫くして道場に現れたのは意外だったが。


「いつもお早いですね・・・長谷部」
「・・・っ・・主はどうした・・小狐丸」
「まだお休みになられています。」


緩やかに道場に上がり、竹刀を手にする小狐丸に
訝しげに思いつつも、鍛練を止めない。


自分は、審神者が存命されていた頃からこの本丸にいる。
小狐丸よりも戦場に赴き、鍛練に励み、経験を積んでいる。


手合せをして初めの頃は負けたことがなかった。
それなのに・・・・


ある日を境に、俺は勝てなくなった。


日々の鍛練を怠ったことはない。
戦に出て、内番もこなし、腕が鈍らないようにこうして
道場で手合せ、鍛練を欠かさなかった。


日々主と散策に出て、近侍をこなしていた小狐丸が
どうして勝てるようになったのか。


それがずっと疑問だった。


竹刀が折れるのではないかと言う程に音が響く。



「・・・はぁ・・・ッは・・・!」
「・・・・」
「何故だ!!!」


思わず叫んでいた。羞恥も何もない。
溜めこんできた疑問をありったけぶつけてやった。


どうして貴様に負ける!!!
打刀と太刀だからか?違うだろう!!

この場での手合せは同じ竹刀だ、つまり正々堂々同じ武器。


「貴様が鍛練をしていない間俺は自身の腕を磨くことを怠らなかった!!!」


審神者様の腕となり足となり、世話係をしてきた。
主の傍で御守りすることが俺の役目だった。
華様をお守りすることも、そうだ。ずっと御守りしてきた。


それが、いつのまにか貴様が隣にいる。
錬度も経験も、何もかも俺が勝っているのに・・・



「何をした?・・・何が違うんだ!!」
「・・・・・・」
「ッ・・・ぜえ・・・は・・ぁ・・・!」
「・・・長谷部」


言いたいことは、それで終いか?


小狐丸の視線は、蔑んだものではなかった。
真摯に言葉に耳を傾けて、長谷部を見ている。


「答えを、差し上げましょう」


何故、この狐に勝てないのかを。


「結論から申し上げますと、勝てない筈がないのです」
「・・・なん、だと・・・?」
「私は、ただ・・・強さを理解しただけ」



主様にお会いし、初めの頃は長谷部と同じでした。
錬度の差は歴然。勝てぬのも道理。勿論悔しさはありました。

主様の為に生き、主様の為にこの命を捧げても厭わないと。


「長谷部もそうであろう?」
「無論だ。主を護り死ぬことは誉れだ。」
「・・・私も初めは、そうでした。ですが・・・今は」


――――死ねませぬ。



小狐丸の言葉に、長谷部は怪訝そうに眼を細める。



死んじゃ嫌だ・・・皆も・・・


「その言葉を頂戴し、私は考えを改めました」


主様が死ぬ前に、死ぬことは許されませぬ。
私が死ねるのは、主様に殺されるか、死ねと命じられるか。
主様が死んだら、その後をお供するか。


それ以外では死ねませぬ。生きねばなりませぬ。


死ぬことは案外容易いのですよ長谷部。
生きることこそ、難しい。


「主様の御傍に生きて存在する、これが私の強さです」
「・・・・・」
「それに、さぼっているように見えて鍛練はしっかりと行っていました」


長谷部が早朝に鍛練されるように、私は夜に行いました。
時間を縮めることはできませぬが、悔しかったのも事実。
主様の近侍であり、初期刀である私は・・・


「如何なることにも、負けるわけにはいかないのですよ・・」
「小狐丸・・・」
「しかし、長谷部と私は、主様を想う心は同じのはず」


故に、長谷部も気づく事が出来たのならば
負けるわけがないのです。


「朝餉だよー!」と、当番の短刀の呼ぶ声がする。
長谷部は差し出される手をとり、立ち上がった。


互いに視線をかわして、不敵に笑む。


「本当に、忌々しいな・・・」
「おお怖い怖い。それは本心か?」
「・・・さあな。・・・次は、負けんぞ」
「手合せの際は、お手柔らかに」
「ふん・・・朝餉だ。主を起こさねば」


長谷部の顔に、もう迷いは見られなかった。
本丸の男士らは、時々小狐丸と瞑想や鍛練を行う
二人の姿を、見かけることになるのであった。


―――――
あとがき


ポジションの嫉妬。
「死ななきゃ安い」を此処から言いだす。
華の為にあらゆることをしてでも生き残ると決めた小狐丸
華の為にいつでも死ねると思っていた長谷部。

以降手合せは勝ち負けなく引き分けみたいになってる。









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