「周囲の警戒を怠らず、何かあれば単独ではなく必ず複数で行動するように」
「わかったよ一兄ィ」


審神者の土地は、珍しく物々しい空気に満ちていた。
空は曇天。このような不穏な色は見たことがない。
話は詳しく知らされてはいない、しかし良くないことが
この審神者の土地に近づいている、それだけはわかった。


審神者の孫様のことも気がかりだが、
安全な地に護衛といるのだ。
何も問題など起こることはないだろう。


「これより、祈祷を開始する・・・」



――――・・・。


「・・・・・」
「孫様、どうしたの?」
「・・・ばっちゃのところに、かえる」
「!・・我慢してね、今はまだ帰れないんだ」
「どうして?・・・いつもはかえろって、みつは言ってくれるのに」
「ごめんね。そこに怖い人がいっぱいいるだろう?あの人たちが帰っていいと言うまで」
「・・・・・・」


珍しく機嫌が悪い、そして聞き分けが悪い孫様に困惑する。
どうして今日に限って、帰りたいと言い続けるのだろうか?
ぶすっとした顔。その顔に怒りも見て取れる。


「・・・っかえる!!」
「っ薬研!!」
「あいよっ・・悪ィな孫様っ!」
「離して!かえるの!!」
「どうしたんだっ・・・いつもはそんな駄々捏ねないだろう?」
「ばっちゃ・・・ばっちゃが・・・っ」
「?・・・審神者様・・・?」


どうか、願う。

何も、起こりませんように、と。



―――――・・・。


審神者の屋敷の周りは、燃えていた。
轟々と唸る炎と爆発の音。
煙の中煤で頬を汚しながら、乱は走っていた。


突然の爆発と、閃光。
目が眩んだ五虎退は虎の鳴き声に反応したが時すでに遅し。


何か強い衝撃を受けて、屋敷の壁に飛ばされ地に伏した。
それを救援に向かおうとした厚も背後に衝撃を受け
同じように弾き飛ばされる。


「五虎退!!厚!!!?」
「敵襲!?でも、敵はどこに!」
「中の警護の、鯰尾に知らせて来て」
「わ、わかりました!鳴狐!あなたも気を付けるのですぞ!」


肩の狐はひゅるりと駆けて奥の屋敷へ消えた。

短刀が一撃で弾かれ重傷を負う程。
余程の敵だろう。分が悪い。


「秋田、平野、警戒しながら下がった方がいいかも」
「そうだな・・・っ一兄ィに合流しよう」
「固まっていこう・・・皆、ちゅう―――」
「前田!!!」
「馬鹿な・・・何がっ・・・ぐはっ!?」
「平野!?・・・秋田!はし―――」
「くっそ、煙で見え―――」
「皆!?・・・っ」
「行こう!!屋敷にっ煙の中なら相手も見つけにくいはずっ」


壊滅した短刀部隊。


胸にあるのは、恐怖心だ。
見えない敵、倒れていく兄弟。
秋田は無事でいるだろうか?
皆重傷を負ってはいたが、折れてはいない筈。
審神者様が存命ならば、問題ない。


薄くなる煙を抜け出した時だった。


「あ・・・・っあき・・た・・・」
「っ・・・ッ!」


動く口。声の出ない秋田。
読み取った言葉は三文字だ。


―――逃げろ!!!


何が起こっている?

あの楽しかった、平和だった日々。
勿論、時には孫様の知らないところで
戦場に出てはいたが、それでも。
あの日常は、安らげる日々だった。


それが、何で?どうして・・・っ!!


目の前に現れたのは、赤と黒。


「一兄ィ・・・薬研、兄ィ・・っ」


足が震える。言いようのないプレッシャー。
自分は刀なのに、どうしてこんなに。


――――怖いんだろう?



「・・・・っ?」
「薬研、どうした?」
「・・・いや、何でもない。それよりも孫様を―――」


嗚呼、なんて曇天だ。












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