とある成金の屋敷に一人の女が雇われていた。
雑用をする女はいつも井戸の傍で洗い物をしていた。
屋敷の主人は大層その女を気に入って、高価な簪を贈った。
それに奥方が怒り、揉み合いの末にその簪で女の首を刺して
井戸の底へと落としてしまったんだ。


次の日から、その女が主人と奥方の枕元に立つようになった。
井戸に落ちたからか、ずるずるびちゃびちゃと水の音と
着物を引きずる音が聞こえて、天井に染みが出来ていく。
押し入れが何故かガタガタと音が鳴り、主人と奥方は
布団に潜り込んで身を隠した。



すると・・・・


「ゴロジデヤル・・・ッ!!」


ずるりと両足を掴まれ引っ張られたんだ!!


「うわあああ!!!!」
「こ・・こわいです!!!」
「なななな泣いてねえぞ!!蛍!!」
「聞いてないよ国俊」

秋田が叫び、五虎退は厚の着物を掴み震えている。
愛染は蛍にどもりながら何事か騒いでいるが蛍は微動だにしていない。


「青江さん!!眠れなくなったらどうするんですか!!」
「ふふ・・そんなに怖かったかな?程度の低いものを選んだつもりだったんだけど」
「あれで低いんですか!?」
「そうだよ?」


首のない女の話、閉じ込められた女の話
縄の・・・


「もういいです!!」
「華様が泣いちゃったらどうするんですか!」


皆ははっとして小さな主に視線を向けた。
自分も参加するといってついてきていた華も
泣いているんじゃないだろうか?


「こわかったねぇ!」
「笑ってるぞ、華」
「おや、怖がってくれたのかと思ったんだけど」


目を細めて青江は華を観察していた。
あれは・・・そうか。ふふ、面白い。


「今日は御開きにしよう。一期に怒られてしまうからね」
「はあい」
「華様、お部屋までお送りしますよ」
「だいじょうぶ!いち兄待ってるよ!おやすみ」


足早に部屋を出て行った華に、皆は小首を傾げるのであった。
その中で一人だけ、楽しそうに笑みを浮かべる青江の姿が。


――――・・・・。


華は全速力で部屋へ走っていた。
小狐丸は今日遠征に行っていていない。
三日月も政府の空木に呼ばれていて本丸にいない。


勢いよく障子をあけてすぐに閉める。
長谷部に用意されていた布団に飛び込んで潜り込んだ。


華が笑っていたのは、怖がる秋田らの不安を増さない為。
自分は長なのだからしっかりしないと、と。
けれども本当は物凄く、怖かったのである。

人は怖いと泣くし、笑うのだ。

華は楽しくて笑っていたのではなく、怖くて笑ってしまっていただけだったのだ。


「(静かなのがこわいよぅ・・・!)」


目をぎゅっとつむり、早く眠ってしまえばいいと
頭の中で眠れ眠れと何度も念じる。


ぎしっぎしっ・・・


「!?(何の、音?)」


床が軋む音がする。何かが近づいてくるような。
こんな時間に?いったい何が?誰が?


ごとごとっ・・・


「!!!?(押し入れ?・・・なんで!?)」



誰も触りはしないのに、押し入れの中から音がする。

そういえば、先程青江の話していたのにも・・・



忘れよう、忘れよう、怖くない怖くない



部屋の前で、音が止んだ。



心臓が爆発しそうなくらいにドキドキとなっている。
ごくりと喉を鳴らして、布団を掴み潜り込むのを深くする。


そして、ふと気づいてしまった。



「両足をつかんでずるりと引き摺りこ―――」


「こもってどうし――――」
「うわああああああん!!!!!」
「っ!!?(何事だ!?)」



布団の傍に気配を感じてがばりと起き上がり思わず叫んでしまった。
声も聞こえる、何といった?青江の話のように「ゴロジデヤル!!」と!?


「お、おい・・・落ち着け!」
「やだやだやだよう!!!あっちいって!!」
「!?(慣れ合うつもりはないといつも言っているからか!?)・・・華!」
「足もってっちゃやだあああ!!!!」
「足?・・・おい、・・・っ華!!見ろ!!」


肩をつかんで無理に自分を見るように促す。
目を大きく見開いて、華は固まっている。


「か・・・ら・・・ちゃん?」
「そうだ・・・」
「う・・え・・・・っふえええええ!!」


困惑しつつも、泣いてる華に事情を聴くため
大倶利伽羅は落ち着くのを待つことにした。









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