目を開けた華が見たのは、見慣れた本丸ではなくて。
空はどんよりとした赤交じりの妙な色をしている。
庭の草木は枯れて、空気が重苦しい。

恐る恐る一歩踏み出す。
一体どこの本丸なのだろう?

どうして自分はこんなところに?


わからないことは沢山あるが、まずは誰かいないのか探すことにした。



ひょこりと顔をのぞかせると、庭園に袈裟を着た人物を見つけた。
見慣れたその色、その髪の色に安堵の息を吐く。
気配に気付いたらしい彼は、ゆったりと立ち上がるも此方を振り向かない。


「こうせつ?」
「・・・・私を呼ぶ貴女は、どなたでしょうか?」
「え・・と・・・」
「心配には及びません。危害は加えるつもりはありませんから・・・」


振り返った彼の瞳は、赤く。
けれどもとても寂しそうで。
驚きと共に、華は目の前の江雪左文字から


別の気を感じていた。
恐らくそれは、この本丸の江雪左文字の主のものだ。


「どのようにして、此処へ来られたのかはわかりませんが」



此処へは来るべきではありません。すぐにお帰りなさい。


「どうしてここにいるのか、わからないの」
「まず、此処へ来れる筈がないのです。貴女は一体・・・」
「・・・・審神者、なの」
「!・・・新たな主・・・では、なさそうですね」
「主さん、いないの??」
「・・・・・帰還されていません・・」


江雪の後ろをちらりと見る。
見慣れた数珠と、笠に嫌な予感が華の中に渦巻いた。


先程から感じていたのは、これか。


――――静かすぎるのだ。


未だに江雪しか見かけていないことも違和感を覚える。
華が自分の本丸に来た時には宗三も小夜の姿もあった。


「・・・・此処は、捨てられた本丸なのですよ」
「すて、られた?」
「・・・・私が、もっと早くに来ていれば・・・・」


パキッ・・・


小さく、嫌な音が微かに耳に届いた。
江雪が溜息を吐いて、華の前に立つ。
その表情から言いたいことを読み取ることは出来ないけれど。


「頭を撫でても、よろしいですか?」
「う、ん。・・・いいよ?」


優しく撫でられる華。
江雪が一瞬目を見開いて手を止めたが、撫でるのをすぐに再開した。


「そう、ですか・・・・」


貴女の本丸には・・・二人がいて、幸せにしているのですね。


「え?・・・」
「何でもありません・・・ですが、最期に幸せを頂きました」


御礼に差し上げるものがありませんが、ただ、貴女が無事に戻れることだけを


――――祈っています。


バキンッ!!


華の目の前から、江雪の姿が消え去った。
足元に散らばるのは、彼の本体、鞘の破片。


華は呑み込めない状況を理解しようと幼いながらにも考えた。
よろよろと後ろへ下がり、へたり込む。


江雪が消えたことによってはっきりと見えたそれは。
庭園のいたるところに散らばる、刀剣の破片。


「あ・・・れ・・・・・さよ・・・ちゃ・・・ん・・・」


笠の傍に散らばる破片。


「・・・そう・・ざ・・・・」


それに寄り添うように放置された数珠と破片。


華は震える足を何とか立たせて、江雪の破片を拾い集めた。
数珠と笠は江雪が作ったのか、それとも本人の物かはわからない。
けれども存在しているということは、誰かが用意した物だ。


「いっしょのほうが、いい・・よね・・・・」


笠と数珠の前に破片を丁寧に置いていく。
指先が笠に触れた瞬間、華の頭に浮かぶこれは・・記憶?


部屋で一人、数珠を作り、笠を編む江雪の姿。


―――どうか、二振に会えますように・・・。


記憶の中でさえも、江雪以外の刀剣を見かけない。


どうしてだろう?いったい何がこの本丸にあったのだろう?


記憶が見えなくなって、華は破片に手を合わせて祈った。


どうか、新しい場所で顕現したら、三振会えますように・・・。


震えが治まり、華は本丸の奥へと向かうことにした。









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