その日、珍しく孫様の姿はなかった。


―――今剣、岩融、薬研、蛍丸、燭台切、大倶利伽羅、獅子王。


そして政府よりの護衛の者が大勢。


審神者の土地から遥か離れた、誰も知らぬ場所にいると聞く。
それを口にしたのは、審神者自身からである。


―――――時を少し遡る。


それは前夜の事。



「三日月や、今から呼ぶ者を集めてくれんかね」
「・・・!・・あい承知した。暫し待っておれよ」


三日月宗近――彼は現審神者に最も近い者。


身の回りの世話等の仕事は長谷部が担当しているのだが、
審神者に最も近く、刀剣を纏めているのは三日月である。


故に三日月が呼ぶ者の部屋に直々に訪れるということは
何事かがある場合だとすぐに理解するのだ。


今剣、岩融、薬研、蛍丸、燭台切、大倶利伽羅、獅子王。


「審神者が呼んでおる。速やかに動け」


子の刻になったら、今から名を上げる者は審神者の部屋の隣に待機せよ。


石切丸、一期一振、蜻蛉切、へし切長谷部、同田貫正国、鶴丸国永、太郎太刀、次郎太刀。


「その他の者は、何事が起こっても動けるようにしつつ、休息を取っておれ」


そう告げる三日月の目は、どこか鋭く、怒りが滲んでいるような気がした。



――――・・・・。


「このような姿で申し訳ないねえ、お前達」
「構いません主。それで、僕らを呼んだのは一体」
「・・・皆、今から命を下す」


布団に入り、体を起こした姿だというのに。
命を下すときの審神者から、ひしひしと力を感じる。
誰かがごくり、と喉を鳴らす音が、聞こえた気がした。
それほどまでに、緊張感が部屋を支配しているのだ。


「燭台切、お前は隊長を務め、華の護衛を担当するように」
「はっ・・・護衛・・ですか?」
「そう。薬研は常に離れぬように。本体を華に忍ばせる」
「俺を・・ですか?」
「岩融、蛍丸や。万が一の際お前達の力で薙いでしまいなさい。今剣は死角の者を」
「おう、任された」
「わかりました、主様」
「はい、審神者様」
「大倶利伽羅は少し離れた位置で周囲を警戒。不審な者が近づく素振りをみせれば直ぐに」
「・・・・わかった」
「獅子王は華の傍に。燭台切は政府の護衛と何かしら話すだろうから」
「わかったぜ。任せてくれ婆様」
「皆の考えは理解している。何故急に孫の護衛を、と考えているんだろうけれど」


この事は、今はまだ話せない。
時が来れば、いずれ話す故に、今ばかりは。



そして子の刻―――


入れ替わりに呼ばれた者が入り、話を進める。


「一期や、お前は兄弟の短刀と部隊を組み指揮をしなさい。」
「了解致しました」
「次郎は石切丸の護衛を。石切丸は厄除けの祈祷を頼みたい」
「拝命致します。」
「太郎は石切丸を手伝いなさい。万が一次郎だけで抑えられない場合は加勢を」
「あたし一人で何とかしてみせる。と、言いたいけど、審神者様がそういうなら」
「承知した」
「蜻蛉切や。祈祷場の入口で警護を」
「拝命を致します。主よ」
「同田貫は前衛、長谷部は私の前で警護を」
「おう。任せとけ」
「主命とあらば・・・」
「お鶴や・・お前は私の傍に」
「こいつぁ、責任重大だねぇ。承知したぜ」


「審神者、そろそろ参ろうか。」
「嗚呼、三日月や。すまないが手を貸してもらえるかねぇ」


そう声を発した審神者の雰囲気は、普段の穏やかなものだった。
それに皆の緊張が少しだけ和らいだのを空気で感じた。


「では、皆。・・・無事でおるのだぞ」











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