山姥切国広は今、とある人の押し入れに隠れていた。
外から数人の声が聞こえてくる。早くどこかへ行って欲しい。


声が止んで、静かになった。


「きりくに!もういいよ!」
「・・・すまないな・・」
「んーん!かくれおにだもんね!」


本当はかくれおにをしているのではない。
遠征の際に通った場所が悪かったのだ。


「兄弟!!布外して!!」
「く・・っ断る。兄弟の言葉であってもだ!」
「あ、待って!!皆手伝って!!」
「わかりました!お待ちください!!」
「布が大変なんです!と、虎くんも大変ですけど・・っ」


一体何が大変なのか。大方汚れているか何かだ。
いつものことだし、汚れている方が好都合。
俺は夢中になって逃げた。布を取られるわけにはいかない。


特に何も考えずに、華の部屋の前に来ていた。
この騒ぎに気付かない訳もないだろう。
部屋から顔をのぞかせて、俺を見て華は―――


「くっつきむし!!」


開口一番そういった。


呆気にとられて固まっていると、兄弟たちの声が近づいてくる。
追われていることに気づいた華は俺の布を掴んで部屋へ引っ張りいれた。


「こまる!皆にないしょ!きりくにいないよ!」
「わかりました・・・お任せ下さい」


障子を閉めて、小狐丸が上手く誤魔化してくれるようだ。


「きりくにはここに隠れてね!」
「・・・っ・・わかった」


言われるがままにそこへ隠れて、それで―――


冒頭へと戻ってくる。


「くっつきむしとは、なんだ?」
「んとね、これ!ぬのにいっぱい!」


見せてきたのが、緑のとげだらけの実だ。
確か、オナモミといっただろうか。
それが大量に布についているらしい。
そういえば遠征でそれっぽい茂みを通った気がする。


それで兄弟は布を取ろうとしてきたのか・・・


「オナモミに塗れているくらいが・・・ちょうどいい」


そうだ。こんなものに塗れている俺ならば
比べられることもない。いいことじゃないか。


「いーち、にーい、さーん」
「?・・・何をしている」
「くっつきむしとってるの!!」
「な・・っ」
「華ほしくなっちゃったの。いいよね?きりくに」
「!・・・ほ、欲しいのなら・・・仕方がない・・・・」
「ありがとう!・・・ごーお、ろーく!」


こんな物の何がいいのか。まあ、欲しいと言うのだ。
俺は必要としないからな。好きにすればいい。


だが、何故だろうか。


「じゅーいち、じゅーに!」


ただ、数を数えているだけなのに。
この声が、もっと聴きたくなる。


「きりくに、頭さげてー」
「・・・こうか?」
「うん!!じゅーご、じゅーろく」


頭にもつくとはどうやってついたんだ?
そう考えていれば、ぽんぽんと小さな手が撫でているのだと気づいた。
思わずその腕を掴んで止めてしまったが、何なんだ!!


「な、何をしている!」
「ぽんぽん!」
「ッ・・・・・そう、か・・・ッ!!」


止めろと言えなかった。そんな嬉しそうな笑顔で言われたら
腕を掴んでいた手を離してしまうじゃないか。


そういえば、前から気になっていたことがある。


―――俺の呼び名だ。


他の本丸では、俺は「まんば」と呼ばれていた。
演練の際に聞いただけだが、他にも山姥切、国広等。
その中で、何故この小さな審神者は俺を、「切国(きりくに)」と?


「聞いても・・・いいか?」
「にじゅ・・・ん?なあに??」
「演練で、他の俺はまんばと呼ばれていた。俺は・・・何故切国なんだ?」


きょとんとした顔で、華は俺をみていた。
何故気になったのかは、俺もわからない。
けれども、聞きたくなったのだ。


「きりくに、きれいっていうなっていった」
「・・・?」


確かに、言ったことがある。
初めて声をかけてくれたときだ。


「きれいだねー!!」


曇りのない、純粋な心。
嘘偽りなど全くない、言葉。


戸惑ったのだ。審神者からも言われたが、
何よりもこの小さな娘から出た言葉に。


「切るに国ってかいて、きりくに!」
「・・・は?」
「だよね!」
「そ、そうだが・・・・?」


国をきるってかっこいいとおもう!


意味がわからなかった。聞いておいて何だが。


「主様。戻りました・・・厨で八つを振舞っていましたよ。行かれては如何です?」
「本当!?いってきます!!」
「お気をつけて。すぐにこの狐も参ります。」


オナモミを沢山いれた袋を持ったまま嬉しそうに華は走って行ってしまった。
俺はといえば、先程の華の言葉に固まったまま。


「演練の際に、華様が言っておられた」
「?・・・・」


小狐丸が視線を合わせて口を開く。
どうやら会話を聞いてたらしい。気配を消すとは性質が悪い。


「昔、他の本丸の山姥切国広が呼ばれていたのを聞いたと」


そこの審神者が言っていたそうな。
名前について嫌なことを色々と。


それはそれは、腹の立つ言い方だったのでしょう。
その本丸の男士らは怒り、本人は暗く悲しんでおられたと。
華様はそれから、色々考えたらしく


国広だと堀川らと同じになってしまう。
山姥切だとその言葉を思い出してしまう。


ならば・・・

切国として、きりくにと呼ぼうと。


「その本丸の子は、呼んであげられないけど」


その子がかなしいってことは、きりくにもきっと悲しいよ。


「!・・・・」
「他の本丸の山姥切国広を心配し、そして此処にいるそなたも心配した」



きりくには綺麗とかいうなっていうよ。
でも、きりくにはとってもきれいだよ!
きれいじゃなくても、きりくにが華は大好きだよ!


「・・・・あいつ・・・」
「要は、そなたを元気づけようとしたということだ」


妬ける話だな、切国よ・・・。


「主様なりの、精一杯の元気づけの言葉ぞ。有難く頂戴しておけ」


借りは油揚げでチャラにしてやろうと、ふらりと消えた狐を見送り
我に返った俺は恐らく赤面しているだろう顔を布で隠して部屋を後にした。



礼を言わせてくれ・・・・。

こんな俺を、他の本丸の俺でさえも


心配してくれて、感謝する・・・。



――――おまけ


「ごーじゅいーち、ごーじゅにー!!」
「(どんな道を通ってかえってきたの兄弟!??)」










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