薄暗い地下牢の中。
その短刀は冷たい床に放られていた。
黒く禍々しい光を帯びた鎖が絡みついていて
放置しておけば何れそれに折られてしまうようだ。


「(大丈夫・・・訓練といっしょ!)」


首に下げた御守を握りしめて、華は静かに周りを警戒しながら歩く。
握りしめた御守からは淡く青い光が小さく放たれていて
暗がりから現れた敵の大太刀が華の前を歩いてくる。


ぎゅうと御守を握りしめて、しゃがみこむ。
大太刀は華が見えていないようにその横を通り過ぎた。

その御守は、時間をかけて華の霊力を貯めて作った守護の御守だ。
結界の役割を果たし、敵に姿を見えないようにするものだ。
だが、欠点もあるとすれば、刀剣からも見えなくなるということ。
それだけ華の霊力が強い証拠なのだが。
そして、その効果は使えば使う程に薄れていく。


「(主様・・・聞こえますか)」
「(こまる?)」
「(姿が見えなくなりました故・・・)」
「(だいじょうぶ、待っててね)」


そろりそろりと静かに地下牢へと距離を縮めていく。
近づけば近づくほどに、短刀からの声が大きくなる。


「(ごめんね・・・ずっと、まっててくれたのにね)」
「(たい、しょ・・・?)」
「(もう少し、がまんしててね)」
「(たいしょ・・・う・・・声・・・届いたんだ・・・)」


もう少し、もう少しで・・・


ヒュウ!と風をきる音がする。
嫌な気配、「(伏せて!!大将!!!))」と短刀の声を聞き
華は咄嗟に体を床に転ばせた。その際にしっかりと守りの札を手に持つ。
敵の脇差が華を狙ってその刃を振い襲い掛かってきている。



―――気づかれた!!!


直ぐに起き上がり人型の依代を脇差に投げて牢屋へ走る。
依代もそれほど長くは持たない。急いで鍵を開けなくては。


「鍵さん!!開いて!!」


錆びた錠を手に目をぎゅっと瞑り頭の中で開くのを想像する。
敵の力を上回る霊力を送り込むことで鍵を壊し開ける。
それをするのに、頭の中で思い描くことで華の力は発揮しやすい。


ぱきりと音を立てて、錠は壊れた。そのまま牢屋に飛び込む。
鎖に手を伸ばすとバチリと音を立てて華の手は弾かれた。


「(大将!?手が・・・ッ!!)」
「ッ・・・へいきだよ!ごめんねっ・・・すぐにたすけてあげるからねっ」


バチバチと音は止まず、黒い雷のような光が華の小さな手に傷をつけていく。
それでも華は手を伸ばすのを止めずに、落ち着いて霊気を送り続けた。
少しずつ鎖は消えていき、短刀の姿が見えてくる。


これならば、名前も読める!!


「(大将!!後ろ!!!)」
「っ・・・!!!?」


脇差の刃が迫る。華は短刀を掴み名を叫んだ。



――――信濃藤四郎!!!!



閃光が地下牢を包み、治まった時には脇差の骸が転がっていた。
華を庇うように立ち、刀を構える人型。
赤い髪を揺らして振り返るその姿。


「・・・やっと、気づいてくれた・・・大将」
「・・・・ごめんね・・・っごめん、ね・・・しなの・・・ッ!!」



ずっと、傍にいた。
産れた時から、ずっと。
気づいてもらえなくても、幸せだった。
その霊気の温もりを感じていられて。


過去政府の手により蔵にいれられた時も。
傍で薬研の本体がいたときも、ずっと。


大将の傍に、形としてはいなかったけれど。


無意識に出したんだとしても、それでも
山で俺を出してくれたこと。嬉しかった。


けれども、その暖かな温もりを、自ら消そうとしたこと。
何よりも、傍にいたのに、救ってあげられなかったこと。


悲しかった。寂しかった。辛かった。



だけど、気づいてくれるって信じてたから。
小狐丸に放られてしまったけれども。


いつか、迎えに来てくれるって・・・・。



だから、今――――



「大将は、護る!!」


手を引いて鏡の元へと走る。
道を塞ぐように現れる敵の刀をかわして、


「懐・・・がら空きだよ!!!」


潜り込んで急所を狙う。


「信濃!!」
「え・・・っちょ・・・!?」


ぐんと引っ張られたかと思ったとき、信濃は刀の姿になっていた。
大太刀の刀が信濃の立っていた場所をぶんと大きく通り過ぎる。


「(大将!?何してるの!!)」
「このままっ走るよ!!」
「(無茶は止めてよ!!俺が護るから!!)」


ぎゅうと信濃の本体を抱きしめて華は走った。
鏡はもう目の前だ。大太刀が後ろを追ってきて距離を詰めてくる。


もう少し、もう少し!!!



「(大将!!!)」
「っ!!」
















目を開けると、そこは祈祷場で。


「御無事ですか主様!!あのような無茶を!!」
「薬研、傷の手当てを・・」
「わかってる。ほら、手だしてもらうぜ華」
「・・・信濃・・・」
「いち兄・・・」
「すまない、薬研・・・華様も、傷の手当てが優先なのはわかっています。ですが・・・」



可愛い弟と妹が涙しているのを黙って何もせず見ていられませぬ。


そういって、二人まとめて一期は抱きしめる。


「・・・ぐす・・・ごめんね、信濃・・・」
「・・・大丈夫だよ・・大将・・・わかってるから」


もう、これからは忘れられない。


これからずっと、その暖かな懐に居させてくれるよね?


・・・華










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