「華、その短刀はどうしたのです?」


それは、まだ華が三歳の時の記憶。
審神者が庭で遊んでいた華の手に握られた短刀に気づいて
声をかけてきたことがあったのだ。
華も何時の間に手にしていたのかを覚えていないし、
その短刀の名前もわからないままで。
調べようと審神者が手を伸ばしたときには、
その短刀は静かに消えてしまったのだ。


そして、それは審神者が亡くなって以降、
華が山へ出て、自害をしようとした際に
再び姿を現したのだ。



(大将が、それを望むのなら・・・寂しいし、悲しいけれど・・・俺は御役目を果たすよ)


ねえ、大将。この声は届いてる?


俺、ずっと大将の懐にいたんだよ。


自分で気づいたのは、手を離れてしまってからだけども。




気づいてくれるよね・・・大将。



小狐丸さんと、無事に合流できてよかった。


大将の命が、なくならなくてよかった。


初めての役目が、大将の自害の手伝いじゃなくて、よかった。



ねえ、大将・・・お願い。



俺を、探して。見つけに来て。



やめて・・・嫌だ!連れて行かないで!!


何処へ連れて行くの!!


此処で待っていれば、大将は必ず見つけに来てくれる!!!


離して!!大将!!!俺は――――




「・・・・!」


目を開ければ、そこは粟田口の皆の部屋で。
時刻はわからないが、複数の寝息が聞こえる。
両隣には平野と前田が眠っていて、その周りには
乱や厚がすやすやと眠っていた。
もぞもぞと布団から抜け出して、部屋を出る。


「(行かなくちゃ・・・連れて行かれちゃう・・・)」


何処にいるのかはわからない。呼ぶ主の名前もまだ言えない。
けれど、ずっと傍にいてくれた、その刀が呼んでいる。


「大将、何してる」
「!・・・薬研にぃ・・・」
「あんなことがあったんだ。誰も起こさないで一人で庭に出るのは感心しないな」
「・・・おひるのこと?」
「嗚呼。覚えてるよな」
「・・・うん。」
「念のため、大将が眠ってる間に結界の緩みは調べたが、なさそうだった」
「薬研にぃ・・・あの短刀は敵じゃないよ」
「なんだって?」
「・・・あれは・・・違うの。」


あれは確かに敵の短刀の姿をしていた。
けれども、完全なモノではなくて。
このまま助けに行かずに、放置してしまうと訪れる
華を呼ぶ短刀の最後の叫びを形にしたもの。


そう、華は思っている。

恐らく敵の手に拾われて、どこかへ葬られようとしている。
夢で見たそこは、地下のような。どこかの城のような。



「で、どこへいこうとしてたんだ」
「・・・祈祷場」
「何でまた」
「・・・そこの鏡さんを使うの。」


恐らく、皆の力を借りて助けることは出来ない。
華が自分でやらないと。それに、時間もない。


「・・・華」
「!」
「せめて、誰か傍につけて戦ってくれ。何をするかはわからんが」
「にぃ・・・」
「心配なのは俺っちだけじゃねぇみたいだしな」
「え?」


薬研が振り返った暗闇の先を華も見やる。


「主様、この狐は離れませんよ」
「こまる?」
「時には兄も頼って欲しいものですな」
「いち兄ぃ」
「長の儀を終えてからというもの、頑張るのはいいが、無茶ばかりするとじじいの心臓が持たんぞ」
「三日月・・・」
「よくこんな時間まで起きてたな」
「何、皆心配で起きておるぞ?」
「ええ、霊気でわかりやすいですからな」
「あう・・・」


ぽんぽんと頭を撫でて、三日月は微笑む。
その華を抱き上げて、小狐丸は祈祷場へと足を進めた。
鍵を一期が開けて、扉を押す。薬研は後ろに続いた。


「鏡を使うと言うことは、戦場にいるのではないのか」
「うん・・・だから、華がいってくる」
「共に行くことは叶いませぬならば、此処でお帰りをお待ちする他ないのですか」
「そうなるな。鏡を割られたりせぬように見張っておく」
「御武運を、華・・・気をつけて行ってくるんだよ?」
「ありがとう。いち兄ぃ・・・あのね」
「何でしょう?」
「お名前、全部は見えなかったんだけど、少しだけ見えたの・・・その名前はね」


鏡の光に華の姿は吸い込まれていく。
その小さな口から発した名前に、一期と薬研は目を見開いた。



ずっと、小さい頃から傍にいてくれた。
その短刀の名前は・・・



――――藤四郎・・・。












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