景趣は夏。蝉の鳴き声が聞こえ暑さは最高潮。
審神者の部屋、今は華の部屋であるそこは静かで
風鈴が時にちりんと可愛らしく音を鳴らしている。


汗も見えず、さらさらと筆を進ませる華の元へ向かう足音は二つ。


「(主様にこの葛きりをお持ちしてお休み頂き、後に毛並みを・・・)」
「(華が好きそうな水菓子を持って行くか)」


ばったりと部屋へ向かう廊下で出会った二人はそれぞれの盆に乗ったものを見て
即座に反応し、脳裏を過る答えを消そうと動いた。


「小狐丸、何処へ行く?」
「主様の所へ行きます。この暑さ故休息を取ってもらおうかと」
「そうだな・・・暑いな」
「ええ。そういう三日月は」
「華に水菓子を持って行こうと思ってな。金魚だぞ」


見えない火花が飛び散り、遠くで二人を見かけた男士はそそくさと
その場を離れていく。言葉通り、触らぬ神に祟りなしである。
埒が明かずに足早に華のいる部屋へと向かう二振。


「こまる!みかづき!」
「すまんな華、邪魔をしてしまったか?」
「んー!書いちゃったからだいじょうぶ!」
「そうか。偉いぞ。どれ俺と菓子を―――」
「主様!暑い中お疲れでしょう。どうぞこの狐めの葛きりを―――」


華の前である故に、二振は笑顔で話しているが
その背には黒いオーラがもやもやとしている。


「(主は今まで主様と共に過ごしてきたであろう!これからは狐の番じゃ!!)」
「(何を言う、俺はこれから先も華と―――)」
「両方食べる!!」
「!?」
「!!?」


嬉しそうににこにこしている華に、二人は顔を見合わせ
暫く沈黙し、そして同時に持ってきたものを差し出した。


「つるつるしておいしいね!!」
「主様が喜んで下さることが、この狐の幸せに御座います!」
「みかづきのお菓子もきれいね!!きんぎょさんがかわいい!!」
「そうだろう、華が喜ぶと思ってな」
「はい!こまる、あーん!」
「!?ッッぬ・・・ぬしさ・・・むぐ!?」
「・・・・・」
「おいしい??」
「むぐ・・・!むうう・・・!(はい・・・!ぬしさま!!)」
「華、俺にはしてくれないのか?」
「みかづきには華のおかしあげるね!」
「ん?・・・っ・・・!」
「こんぺいとう!」


かりかりと小さな粒を噛みしめて頬を緩める。
小狐丸も飲み込んで嬉しそうに笑みを浮かべた。


「主様!後に毛並みを整えて下さいまし」
「いいよ!ふわふわする!」
「華、熱いだろうから小狐丸のそれは夜にして今は俺と遊ぼう」
「む?何して遊ぶの?」
「何でもいいぞ。花札、囲碁、貝合わせ」
「貝合わせしたい!」
「(おのれ三日月・・・)」
「でもこまるのふわふわもする!」
「(おのれ小狐・・・)」



菓子をやりすぎて夕餉が入らなくなるからほどほどにするように!
と、厨担当班らに説教をくらうまで、二人の戦いは終わりを見せなかった。


そして何だかんだあれど、冒頭に戻ることになるのである。










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