「こいつぁ驚きだねぇ」


突然のどしゃぶり雨に、孫様を抱き雨が凌げる場所に走る。
体が冷えてしまっては、人間は風邪をひくと聞いた。
それはとても困る。いや、とても以上に困る。
雨は弱くなってきている。もうすぐ止むだろうか?


そういえば隣がやけに静かだ。
下した孫様はここまで静かじゃなかった筈。
敷地内の散歩に行きたいと言いだし、
審神者の婆様の許可が出て大はしゃぎしていたのだ。
ひょっとして疲れてしまったかと隣に視線を向ける。


「!?」


いない。そんな馬鹿な。こんな驚きはいらない。
まさかこの自分が孫様がいなくなるのに気づけないなんて。
不覚もいいところだ。急いで周囲を見渡す。


がさがさとふきの葉が揺れる。
そう、雨宿りをしているのはふきの葉の屋根だ。
大量に自生しているふきは雨から身を守ってくれている。
その葉が不自然に揺れて、足元に衝撃がきた。


「お嬢。勝手にいなくなったら驚くだろ?」
「ごめんなさい」


悪いことをしたら素直に謝る。
そこがお嬢の良い所だ。しかもちゃんと目を見て謝るのがいい。
やはり流石は審神者の婆様の孫だと感心する。


「おつるがぬれちゃうとおもって」
「!それで泥だらけなのか。」


ふきを引っこ抜くために格闘したのか。
折角の着物が泥で汚れていた。
こいつはいけない。ここが審神者の土地でよかった。
もし万が一他の者に見られたら示しがつかない。
けれども、今は自分の為に気遣ってくれたお嬢が


素直に、嬉しく思った。


「だいぶ小雨になってきたな」
「おやしき、帰れる?」
「嗚呼。」


お嬢がひっこぬいてきたふきの葉は一本。
俺一人だけならば雨をしのげるだろう。
だが、お嬢が濡れてしまう。こいつはいけない。


「!」
「お嬢は、ここに入りな」


ばさりと右手側の羽織を広げて空間をつくってやる。


「おつるのおきもの、ぬれちゃうよ?」
「ははっ、鶴の翼はお嬢の傘代わりになるんだぜ。濡れても構わないさ」


左手にはふきの葉傘
右の翼には、小さなお嬢。


さあ、帰ろうか。


翼の中で笑うお嬢が、とても輝いて見えたから。
たまには、雨も、悪くない。










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