side ハイデマリー


「ひとまず今日は食事の改善からしていきましょうか。わたくし、あのスープだけは我慢ならないのです! フェルディーノ様もお望みですよね?」
「まあ、そうだな。ここだけでなら良いのではないか?」
「ではそうしましょう。早速ですが、ラザファムはわたくしと一緒に厨房へついて来てくださいませ。ハイデマリーは午後から引き継ぎができるよう、管理している資料をまとめておいて下さいませ。エックハルトはフェルディーノ様が参戦されたディッターの記録をお持ちと聞きました。そちらの資料を魔物別と戦術別にまとめておいて下さいますと今後の戦略立てに助かります。ユストクスはいつも通りフェルディーノ様のお側に。きっとこれから工房に籠ってしまわれると思うので、よくよく見張っていただきたいと思います。できれば鐘一つ分おきには休憩に引っ張り出してくださいませ。それから、フェルディーノ様……」
「なんだ?」
「くれぐれも、作りすぎないで下さいませ。意匠も控えめでお願いいたしますわ」
「何故だ?」
「目立ちたくないからですわ。今のわたくしは中級貴族ですからね? まさかと思いますが領主候補生に相応しいものをお考えではないですよね? 明らかに悪目立ちしますのでやめて下さいませ。わたくし、平穏に過ごしたいのです」
「……外から見えなければ問題なかろう」
「大有りです! 側仕え達が驚くでしょう! 今のわたくしの状況だと、あっという間に噂になってしまいますわ。そうなって困るのはフェルディーノ様ですわよね?」
「……善処しよう」

 主がこのように簡単に言いくるめられているのが信じられない思いで聞いていました。
 突然現れた他領の側近候補。しかも女性です。そもそも他領の者ならば、領地間の移動がなされなければ側近になれないのは常識です。それを特例で覆すほど優秀な方なのでしょうか。いえ、フェルディーノ様が側に置きたいと自ら選んだ側近です。優秀な方に決まってますわね。
 それにしてもローゼマリン様の指示は的確で、その洗練された所作も含めてまるで領主候補生のようです。おまけに彼女のマントの刺繍……あれは先日からフェルディーノ様が身につけるようになったダンケルフェルガ―のマントと同じ意匠ではないかしら。憶測ですが、嬉しい予感に鼓動が高鳴るのを止められませんわ!

「あと、これは提案なのですが……」
「はぁ。まだ何かあるのか?」
「ユストクスには多少事情をお話になってはいかがですか? わたくし、あのようにギラギラした目で観察されて問い詰められるのは……色々と差し支えが」
「コレのことは放っておきなさい。無視すればよかろう」
「いえ、そこは主としてシッカリ手綱を握ってくださいませ!」

 お二人から揃ってうんざりしたような視線を向けられるユストクス。彼がまだ何も尋ねていないうちから警戒されているようですわね。ローゼマリン様はわたくしたち側近についてもよくご存知のようで、ますます興味が尽きません。
 何としてもお二人の関係を詳細に知りたいものですが、ここは一先ずユストクスに任せて、わたくしたちは良い知らせがもたらされるのを楽しみに待つとしましょう。ふふふ。




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