三次試験
レオリオとクラピカの間で眠った翌朝。
三次試験会場には、予定より1時間ほど遅れて到着した。


トリックタワーと呼ばれる塔に降ろされたわたし達は、72時間以内に生きて下におりなければならないらしい。

わざわざ生きて≠ニ言うあたり、今回も命の危険が伴う試験だということだろう。





「なんにも無いね」

あたりを見回してゴンが言う。

「でもトリックタワーっていうくらいだがら、何か仕掛けがあるんじゃないかな?」

「手分けして探そうぜ」


五人でバラバラになって仕掛けを探してまわる。



普通に考えたら床か壁にスイッチか何かがあって、隠し扉が開かれて地下への階段が現れる……

なんてものを想像していたのだが。


どうやら落とし穴だったようで、わたしは呆気なく穴に落ちたのだった。


身軽なおかげで怪我もなく、難なく着地することができた。

体感で5メートルほど落ちた先は薄暗い部屋で。
出口と思われる扉が一つと、電光掲示板のようなものが一つあるのが窺えた。

ブツンと音がしてアナウンスが流れる。

「ようこそ、運命共同体の道へ。君たちは共に力を合わせてこの先の試練を乗り越えなければならない。どちらかが死んだら失格。手錠が外れても失格だ。では検討を祈る」

言われて初めて気付いたが、部屋にはもう一人受験生が佇んでいた。

(全然気づかなかった……)

あまりの気配の無さに、ヒソカとは違った種類の悪寒が走る。
未知のものに対する緊張、だろうか。


カタカタと揺れる針男を前にして、とりあえず自己紹介をするべきだろかとナナミは悩んだ。

「えっと、筆談した方が良いですか?」

「……平気」

「あ、喋れたんですね。良かった……ナナミと言います。よろしくお願いしますね」

「うん」








おもむろに刺さっている針に手を伸ばし、次々と抜いていく様子を呆然と見つめる。

針男でなくなった針男さんは、ビキビキと顔を引き攣らせながら変形させていき、やがて別人の顔へと変貌を遂げる。

髪の色まで変わっていて、黒髪がわたしと同じくらいの長さの男性となった。

(…………ッ! す、すごい。これも魔法なの?)

「あー、すっきりした」

「あ、こっちが素顔ですか?」

「そ。オレはイルミ。さっきの顔の時はギタラクルって呼んで」

ぱっちりとした目の人形みたいにキレイな人が、抑揚なく無機質に喋る。

「……分かりました。イルミさん、改めてよろしくお願いします」

「いいよ、呼び捨てで。敬語もいらない」

「そう? まぁ歳も近そうですし、わたしのことも呼び捨てでどうぞ。ところでイルミはどっちの腕にする?」

わたしは台の上に置かれた手錠を持ち上げて問う。

「左」

「じゃあ、わたしは右手ね」

「いいの?」

「大丈夫。それよりも扉の先に何があるか分からないから、今から色んな加護を祈るね?」


そう言ってわたしは、助言の神や導きの神、狩猟の神や武勇の神、守護の神や幸運の神など、あらゆる神様への加護を願って魔力を込めた。

わたし達二人にたくさんの色の光が降り注ぎ、それをイルミは不思議そうに?無表情で眺めていた。


「それがナナミの能力?」

「そうだよ。神様にお祈りすることで祝福を得られの。処理能力があがったり、怪我が治ったり、色んな効果があるんだよ?」

「ふーん、サポート向きだね」

「そうかもね。じゃあ、行こっか!」




イルミと並んで歩いていくと、飛び道具などのいくつかの仕掛けが発動し、どれも的外れや不発に終わる。

「へぇ……」

「幸運の神様に祈った甲斐があったね」

「これなら走った方が攻略が早いかもね」

「そうだね。進めるとこまで進んでみようか」


そう言って二人で走り出す。
いつもより速く走れることに気づいたらしいイルミは、「遅い」と言うなりわたしを抱えて走り出したのだった。









殺傷仕掛けが満載の道を通り抜け、難問クイズの部屋を攻略し、荒っぽい試験官?と戦う部屋を難なく通過する。

イルミは素早くて賢くて強くて無口だった。
常に無表情でいるので何を考えているのかサッパリだったけど、わたし達は協力しあってトリックタワーからの脱出をすることができた。

ちなみに順位は二位だった。
制限時間は三日間なのに、たった半日弱という予想外な早さで三次試験をクリアーできたことに驚きを隠せない。

わたしも貢献したけれど、やっぱりイルミの身体能力が高かったことが大きいだろう。わたしの転生チート?を軽く上回る。もはや普通の基準がわからなくなった。

とにかく走るのが速くてジェットコースターに乗ってるみたいな道中だった。酔わない体質だったのは幸いである。

音もなく駆け続けたイルミはまるで忍者のようだった。
何者なのだろうか。忍者でないならアサシンとか?



「おや、遅かったねぇ◆」

「ヒソカが早かったんだろ」

「まぁ確かにボクの道は簡単だったからね☆」

「その割には怪我してるじゃん」

一位で到着していたらしいヒソカとイルミは既知の仲のようだ。
二人はわりと親しげに話している。

そして何故だかトランプで遊びながら時間潰しをすることになり、第四位のハンゾーが到着するまでの間、イルミとヒソカと雑談を交わしたことで多少仲良くなったのである。




ヒソカは警戒すべき危険人物だけど、戦闘モードではない冷静な時はそれほど害はないようで。
普通に会話が成り立った。

逆にイルミは無表情でボケをかます。
わたしも表情豊かな方ではないけれど、イルミのこれは極端で。ヒソカはそれを面白がっているようだった。


「イルミはカードゲームも強いんだね」

「まぁね。訓練したから」

「訓練かぁ……なにかの養成所で習ったの?」

「実家。うち家業が暗殺業なんだよね」

「! そうなんだ」


なんとも驚くことに、イルミは本物のアサシンだったのである。

この世界は本当に何でもアリなのだ。
ファンタジー世界にしかないような職業が普通に成り立っている。

おまけにイルミはゾルディック家という、わたしでも知っている暗殺一家の名家のボンボンだったのである。
どこか浮世離れした様子はそのせいだったのかと納得したナナミだった。









実は忍者と話してみたかったわたしは、ハンゾーという名の忍が部屋に来てからは彼と一緒に会話をして過ごした。

と言ってももっぱら話すのはハンゾーのみ。
この人は本当におしゃべりな忍者で、話せば話すほどわたしの忍者≠ノ対するイメージは崩れていった。
むしろイルミの方が忍者っぽいとすら思う。

それでもジャポンという国について知りたかったわたしは、ハンゾーにとって良い話し相手だったのではないだろうか。

着物、俳句、京都についてなど、伝統文化とされるものはおおむねナナミの前世の知識と同じであった。
だけども共通語はハンター語で、日本語は第二言語だという事実には驚く。
わりと閉鎖的な国らしいジャポンですら、ハンターの存在は常識なのである。
とても不思議な気分だった。


なんだかんだで名刺までもらってしまい、漢字を眺めて感慨に耽る。

ここ三年は今世についての勉強ばかりしていたナナミだったが、久々に前世の故郷について考えてみたくなったのだ。

覚えている漢字も少なくなっているかもしれないし、日本語で日記でも書いてみようかと思い、持っていたミニノートにハンター試験が始まってからの日々を綴り始める。

思い返せば友人らしい友人がいなかったこれまでの人生で、ハンター試験の受験を機にレオリオ達と知り合い、仲良くなった。

初めてかもしれない友達を、大事にしたいと思うナナミなのだった。



(できれば女の子の友達も欲しいけど……)

そう思って見渡すも女子率は異様に低いのがこのハンター試験。
今のところ女の子はクリアーしていなかった。

おまけに現在は敵対することもあるかもしれない試験中。

なかなか友達作りは難しそうだった。





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