面接日


「おはよう、クラピカ」

「おはよう、ナナミ」

ふっと微笑みあってから起きあがる。
昨日もその前も、わたし達は同じベッドで寝ていた。
寄り添って眠るだけで幸せだった。

「調子はどう? クラピカ」

いよいよ今日が面接日。
アンダーグラウンドへの第一歩だ。

「問題ない。ナナミはどうだ?」

「ばっちりだよ」

情報収集をしながら待機している間、わたしとクラピカは訓練と称して組手をしたりしていた。
凝や硬の応用技である流のスピードが遅いわたしにクラピカが付き合ってくれた形だ。なかなか手厳しいコーチだった。誰に似たのやら。

堅をしすぎて疲労困憊になって寝付くことが多かったのだが、必ず翌日には回復していた。やはりわたしはタフなのだろう。

クラピカは緋の目になるとオーラの総量が上がる。
わたしもオーラ自体は少ない方ではないけれど、ついていくのは大変だった。彼の才能は凄い。

クラピカは凝縮するのが得意。わたしは放出するのが得意。
クラピカは周や堅が得意。わたしは隠や円が得意。

かなり上手いこと補い合っているのではないだろうか。
それがボディーガード業務にもいかせると良いと思う。





会場まで歩いて向かう。
もう仕事モードなので、手を繋いだりはしなかった。

クラピカはオンとオフはしっかり分けたいタイプかもしれない。わたしもだけど。












「千耳会からの紹介で来た者だ」

クラピカが代表してインターホンを押して話す。

着いた面接会場はなんとも立派な家だった。
大きな庭には何頭もの犬が放し飼いにされている。
キルアの実家には及ばないけれど、一般的には豪邸だ。

ノストラード組はネオンのおかげでかなり資金が潤沢らしい。それでいいのか父親。



執事に案内された部屋にはすでに5人もの先客がいた。
そのうち女性は1人? いや、あの小さい人は見た目だけじゃ性別不明だ。どっちだろう。

なんだか露出の多い美人なお姉さんがクラピカをじっと見ているのが気になった。

「ねぇ、あんた。あたしとキスしない?」

いきなりとんでもないことを言う美女だ。
クラピカも美人だけど、一目惚れでもしたのだろうか。

「知らない? インスタントラヴァーって言うの。都会で流行ってるのよ」

そんな噂話は聞いたことがない。十中八九、嘘だろう。
とりあえずクラピカの出方を見る。

「結構だ。あいにく田舎者なのでな」

あっさりと断った。
まぁ当然だろう。クラピカの唇はわたしのものだ。

「そっちのお嬢ちゃんは?」

まさかのバイセクシュアルなのか。
しかし、わたしは異性愛者なのだった。恋人もいる。

「遠慮しておきます。わたしの唇は彼のものなので」

クラピカがちょっと赤くなる。
しまった。つい余計なことを言ってしまった。

「チッ、女連れかよ」

誰かが呟いた。
たぶん真ん中の黒髪の男だろう。

わたしが男連れで参加したとは思わないのだろうか。男尊女卑?
それとも、わたしがクラピカについてきたことが早くもバレている?

判らないので、情報収集のチェックリストに入れておく。
あとで念魚ちゃん達に周辺を洗ってもらうのだ。



「これより説明を始めさせていただきます」

執事がスクリーンがおろすと、画面に男が映し出されて説明が始まる。

雇用の条件は、面接で判断するとのことだったが、予定が変わったのだろうか。リストにあるものを期限内に入手してくることとダルツォルネと名乗った男は話し、次々と人体収集家の欲しいものリストの写真がスクリーンに映し出されていく。

最後に緋の目が映し出され時、ドキンと心臓が高鳴った。

クラピカの同胞。
早く集めてあげたい。


能力が高まる木曜日の情報収集結果が待ち遠しかった。

 











sideクラピカ




「言い忘れていたが、強いことが雇用の最低条件だ。この館から生きて出られるくらいには最低な」

そんな捨て台詞を残したダルツォルネという男。
おそらく護衛団のリーダーだと思われる。そんな男と画面越しにしか会話できない状況。
これが今の我々と雇用主との距離だ。この距離を限りなくゼロに近付ける。



扉が蹴破られて黒装束の刺客が流れ込む。
銃を発砲し、剣を振り回す。

オレは導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)で応戦した。
隣ではナナミが風の盾を張って弾をはじいている。余裕そうだ。

上にあがって戦況をみていると、ふいにナナミが窓際にいる男に向かって歩き出す。
よく見れば1人だけ襲われてない男だった。術者はアイツだろう。その男にナナミは話しかけていた。

「風船黒子をしまってもらえますか。トチーノさん?」

いつのまにかナナミは炎の矢をつがえて弓を構えていた。

「……オーケー。しかし何故わかった? 何故オレの能力を知っている?」

「そんなの秘密です。でも、それを知ってる人は案外多いみたいですよ?」

おそらくナナミの能力、木曜日の噂話で収集した情報にヤツのことがあったのだろう。
ホテルに待機している間、オレ達はネオン=ノストラードの次にその護衛団についての情報を集めていた。




男がソファーに座って話す。

「こんなに早くバレるとは思わなかったぜ。ま、君達5人の力なら館から脱出できるだろ。がんばりな」

シャッチモーノ=トチーノと名乗った男は、館の主人に雇われている先輩ハンターだと話した。
ボスに命令されて殺すつもりで試した≠轤オかったが、失言の多い男だ。

「撹乱のつもりで言ったのだろうが失言だったな。私が他に潜入者がいるかどうか調べよう」


ダウジングチェーンを構えて一人一人の前に立つ。もちろんナナミも例外ではない。
すると1人の男の前で反応した。


「いたな。お前がもう1人の潜入者だ」

「なっ、ただ鎖が揺れただけじゃねーか!」

「ダウジングってやつよ。おそらく当たっているわ」

小柄な男が説明する。
そして彼は男の心音が典型的な嘘つきの旋律だったと明言した。


それでも潜入者であることを認めない男は、オレやナナミや小柄な男が潜入者であり、口裏を合わせているのだと喚き散らす。
見苦しい言い逃れようだった。筋が通っていない。


 










sideクラピカ




「はぁ、面倒……もうさ、この人のことは放って、脱出しない?」

ナナミがオレを見て話す。
確かに、潜入者が判ったところで仕掛けられた罠まで分かるわけじゃない。ここでいつまでも揉めていても仕方がなかった。

「待て待て、俺が結論を出してやるよ」

大柄な男がナナミの肩を叩いて前に出る。
バショウと名乗ったその男は、細長い紙に短歌を書きつけて椅子を殴る。すると、その椅子は書かれた言葉の通りに燃え上がった。

グレイトハイカーという能力名らしい。

「ちなみにこいつは俳句というもので、俺の祖国が誇る文化だ。俺が詠みしるした句は実現する」

「えっ、ステキ!」

なぜかナナミが目を輝かせて称賛した。

「おーよ。嬢ちゃん、わかってるじゃねーか」

「……話を先へ進めろ」

オレは苛々しながら促した。

「短気なやつだな……まぁ本番はここからだ。我が問いに 空言人が 焼かれ死ぬ$Sして応えた方が身のためだぜ。お前は潜入者か?」

「違う」

「お前は?」

男がナナミに問う。

「わたしも違います」

「お前は?」

「違うわよ」

「お前は?」

「違うわ」

「お前は潜入者か?」

「あ、ああ。オレは潜入者だ」

トチーノが答えたことで、残されたのは先程の喚いていた男のみとなる。
皆の視線が集まるなか、バショウは男に問いかけた。

「お前は潜入者か?」

「…………ふぅ〜……。お見事。俺も潜入者だ。ご褒美に教えてやろう。俺はスクワラ。正式なライセンスは持ってないが、操作系に属する能力を持っている。そしてすでにある命令を念じてある」

「あのワンちゃん達のこと? あなたのオーラと同じものを感じたわ」

少し前から円をしていたナナミが男に問いかける。

「なっ!? それは答えるわけにはいかねー……な!?」

そんな男に近付いていったのは最初に話しかけてきた女で、彼女は唐突にスクワラにキスをした。

「「「「「!」」」」」

「あたしも操作系能力者。あたしに唇を奪われた者をあたしの下僕に変える!」


そこからの光景は見るに堪えないものだった。






「クラピカ、断って良かったね。わたし、クラピカのあんな姿は見たくないな……」

「やめてくれ。できれば想像もしないで欲しい……」

ナナミは神妙に真顔でワカッタと頷いた。


 

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