暗殺一家の住まい

キルアを迎えに行く――

クラピカとレオリオにそう宣言して、ゴンは真っ直ぐにわたしを見つめた。

「ナナミも行くよね?」

「わたしは……そう、だね。やっぱり気になるからついて行こうかな……」

ゴンの言う、操られたキルアを奪い返しに行くとか、そういう理由ではないけれど。

あの後キルアがどうなったのか気になるのは確かだった。
無事なことを確かめたいし、本当に暗殺者を辞めたいなら、ちゃんと家のルールに従って辞めて欲しいと思う。穏便に。

忍者だって抜け忍とかの制度?があるのだから、暗殺者だって辞められるはずだ。
どうしても無理で、強行突破するしかないというのなら……仕方がないと諦めて手伝うつもりだけれど。

キルアは、お父さんのことは尊敬しているようだったから。
まずはきちんと話し合って欲しいなと思うのだ。





イルミに聞いた彼らの実家は、ククルーマウンテンという山の中にあるらしかった。
なんでも、地元ではそれなりに有名らしい。流石、暗殺者の名家。

住処が山の中にあるといっても、山育ちというのとは異なるのだろう。
イルミにしても、食事などの動作は洗練されていた。

「名門の家って、どんなところなんだろね」

「確かに想像がつかないな」

「キルアって着てる服もブランド物だったし、なんだかんだでお坊ちゃん育ちだよね。金銭感覚とかズレてそう」

「そういうナナミこそ、試験に不釣り合いな格好だとずっと思っていたが……」

「せっかく女の子に生まれたからね。スカートは外せないよ」

「だから侮られるのではないか?」

わたしの力を侮っていたクラピカが苦笑した。

「そういえばわたし、飛行船の旅ってハンター試験が初めてだったんだ。景色がのんびり見られて良いよね」

「そうなのか? 慣れているように見えたが……懐かしそうに夜景を見てただろう」

「ふふっ、クラピカは鋭いねぇ。確かに高いところからの夜景は見慣れてたよ。大昔の話だけどね」



他愛ない話をしながらキルアのいる家を目指す。

キルアと合流したそのあとのことは、まだ考えない――








観光バスに乗って着いた終着地が友達の実家の正門という、驚きの展開に呆けていると。
クラピカに腕を引っ張られた。

「ナナミ。あまり彼奴らに近寄らない方がいい」

彼の言うアイツらとは、いかにも賞金稼ぎな風体の男達だろう。

少し離れて見守っていると、男達は大きすぎる正門を開けるのを諦め、隣の勝手口のような扉の鍵を奪っていた。哀れな守衛さんはされるがままだ。違和感が凄い。

「あの人、本当にゾルディック家の守衛なのかな? 任務放棄してない?」

「ナナミの言う通り、有名な暗殺一家の門番には見えないな……だが、人は見かけによらないのも確かだ」

意味深にこちらを見るクラピカ。
事実なので確かに≠ニしか答えようがない……

門はあるのにインターホンがない。
守衛さんに話して、キルアに取り次いでもらえば良いのだろうか?


そうこうしているうちに、押し入ったはずの男達が変わり果てた姿で戻ってきた。
人がこんなにも早く骨になるのを初めて見た。
中でいったい何があったのだろう。強力な薬品でも浴びたのか?

「さっきのあの手って魔獣かな……?」

「分からないが、あの守衛は知っているようだ。ミケと呼んでいた」

(ネコ……?)







結局ゴンが守衛さんじゃなかったゼブロさんに真っ直ぐにぶつかって事情を話し、執事室に電話をつないでもらう。
問答無用でお断りしてくる執事の態度にゴンが怒り、無理矢理なかに入ることを決めて宣言した。

キルアの一番の友達はゴンだ。
だからわたし達はゴンに従うつもりでついてきている。
ゴンが無理矢理この門を乗り越えると言うのなら、そうするしかないのだろう。











一時は侵入者としてなかに入ろうとしていたわたし達だったが、ゼブロさんに説得されて正面から堂々と入ることにする。

試しの門≠ニ呼ばれる大門は、Tの門でも片方2トンの重さらしかった。
ゴンもわたしもクラピカもレオリオも、誰も4トンの扉を開くことはできなかった。
ちなみにわたしは、片方だけなら開けられた。

だけどキルアは16トンもするVの門を開けて帰宅したらしい。
恐るべし暗殺一家。彼らとの力量の差は明白だ。






ゼブロさんたちの好意に甘え、門を開けられるようになるための修行を積んでいく。

何十キロもあるスリッパを履いたりベストを羽織ったり……お茶ひとつ飲むのも家事をするのも筋トレだった。

この世界で覚醒した時、体が妙に軽いと思っていたけれど、重しをつけたことで前世の感覚に近付いたことを実感する。
もしかしたら重力が違うのかもしれなかった。世界が違うのだから当たり前かもしれないが。



50キロから始まって、どんどんとペースをあげて重しを増やしていくわたしに、クラピカとレオリオは引き気味だった。

慣れれば200キロの重しも苦にならない。いつも通り自然に動ける。
わたしは本当に不思議な怪力娘になっていた。

強すぎて嫁の貰い手がつかないかもしれない……なんてことを考えてしまったせいで、結婚するならクラピカがいいなと思ってしまう。
どう考えても無理だろうけど。

復讐に生きるクラピカは、弱みとなる存在を作らない。そんな気がした。



一週間が経つ頃には、わたしは Tの門を開けられるようになっていた――












修行のため、ゴン達と一緒に暮らしていく中で、わたしのやりたいことが形になっていく。


ゴンも無鉄砲で心配なところがあるけど、彼にはキルアがいた。
本当に二人は良いコンビで、足りないところを補い合っているように思えた。

そしてレオリオ。彼は医者となってこれから沢山の人々を救うのだ。
自ら危険な場所に突っ込もうとすることはないと安心できる。彼には地元に家族もいる。

クラピカだけが一人だった。支えてくれる家族もいない。
だからわたしはクラピカを守りたい。
できれば幸せにしたい。家族になりたい。

というか既に家族のように想っている。
これからわたしに付き纏われることになるだろうクラピカは大変だ。
わたしなんかに好かれて可哀想だとも言える。


レオリオと、居間で故郷の話を聞きながら、そんなことを考えていた。


「ふーん、じゃあライセンスがあれば医大の費用全部が免除になるんだ。凄いねぇ」

「まぁな。そのかわり国立の医大に限るけどな」

「レオリオなら大丈夫でしょ。難関のハンター試験に受かったくらいだもん。底力あると思う」

「ま、受かるよう応援しててくれ」


二週間が経つ頃にはレオリオも Tの門を開けていて、わたしはUの門もあと少しで開きそうになっていた。


「そういやナナミはどうするんだ? 例の大切な人のところに帰るのか?」

ニヤニヤとしながら尋ねるレオリオは、何か勘違いしているようである。

「わたしに帰る場所なんてないよ? 仮で住んでた場所も人に譲ってきたし……当面はライセンスを使ってホテル生活かなぁ」

その前にクラピカを説得して、彼についていく許可をもらわなければならない。

「……なんか悪ぃこと聞いちまったか?」

「そんなことない。ただの事実だもん。それに今はこうして新しく大切な人達ができたしね」

「そうか」

「わたし、レオリオ達のこと家族みたいに思ってる。みんな愛すべき弟達だよ」

「おいおい、そりゃねーぜ。俺は頼りになる兄貴だろ?!」

「いやいや、レオリオはどう見ても大きい弟だよね? 見た目は老けてるけど、中身はわたしより年下でしょ。料理だって下手くそだし、本当に医者になれる? 大丈夫? ちゃんと医大卒業してね?」

「料理はカンケーねーだろ! オペに調味料はいらねーんだよっ!」


そんな会話にゴンやクラピカも混ざったりして、楽しい毎日が過ぎていく。
食卓が賑やかなのが新鮮で、今だけだと分かっていても嬉しかった。
 











sideクラピカ



夜も更けて、三人で使わせてもらっている部屋の隅で本を読む。

レオリオも医学書を読んでいるようで、真面目なところもあることを改めて実感する。
医者を目指しているわりには邪な発言の多い奴だが、根はいいやつなのだ。

ゴンは風呂に入っていた。


「なぁ、クラピカよぉ。ナナミの故郷の話って聞いたことあるか?」

「……いや。詳しくは知らないが、島国の出身なのだろう?」

「なんだ、オメーにも話してないのか。オメーら仲良さそうなのに」

「それはどうだろうな」

ナナミとはよく話をするが、彼女の昔話はあまり聞いたことがなかった。
案外、信用されていないのだろうか。そう思うと少し胸が苦しかった。

「ふぅぅん? おまえ、ナナミのこと好きだろう」

「好きか嫌いかで言えば前者だが」

お前だって彼女のことが好きだろう。おまけに先日は風呂を覗こうとしていたほどだ。当然、叩きのめしてやったが。

「ほぅー、そういうこと言っちゃうわけね。いいぜ。教えてやるよ。ナナミは俺達のこと家族みたいに大切に思ってるんだとよ。大好きらしいぜ〜、弟みたいにな!」

ドクン、急激に鼓動が高まったと思ったら、一気に気分が下降する。

「弟……」

言葉にできない思いで思考が埋め尽くされる。
家族のように大切で好きだと言われて嬉しいはずなのに、弟というワードが気に入らない。そんなのは嫌だと拒否したかった。

「おまえって意外と分かり易いヤツだよな」

レオリオには書籍を角が当たるように投げつけた。












ゴンとクラピカもTの門を開けられるようになると、ゴンの観光ビザの期限が迫ってきていた。

わたし達と違ってハンターライセンスを使わなかったゴンに猶予はない。
すぐさまキルアのいる場所を目指して敷地内の道を進むことにする。

その先で出会ったのは、わたしと同じくらいの歳の少女だった。
侵入者を排除せんと立ち塞がる彼女を前に、ゴンは一人で挑む。手を出さないでと言われたからには、見守るしかないわたし達だった。

最終試験の時のように、一方的にゴンが張り倒されていく。
でも、試験の時と違うのは、ゴンに攻撃の意思がないということだ。
あくまでも友達に会いに来ただけ≠ナ敵意はないことを証明するかのように。
そして彼女の方も手加減している。本気で殺そうなどとは考えていないのだろう。




何度も何度も、繰り返されるやり取りに……先に折れたのは彼女の方だった。

またしてもゴンの粘り勝ちである。


そう思った時、飛んできた何かが彼女に当たる。
ゆっくりと倒れる少女を見て、わたしはまた自分の力不足を実感する。
素早く反応して人を助けられるようになりたいと思った――






気を失った彼女と入れ替わりにして現れたのは、キルアの母と名乗る人物だった。
不思議なゴーグル?をつけたキルアのお母さんは、キルアからのメッセージを伝えてきたと思ったら唐突に叫びだし、また遊びにいらしてねと言い残して去っていった。

嵐のような人だった。
しかし、また来ても良いとのことには驚いた。
友達だと認めてもらえたのだろうか。





目を覚ました執事見習いの少女――カナリアさんに案内されて、執事室と呼ばれる場所に向かう。


到着すると思いのほか歓迎されて、お茶をもらって腰を落ち着ける。
キルアはこちらに向かっているとのことで、そのあいだ執事長のゴトーさんとゲームをして待つことになった。

 











「右だ」

「わたしは左」

コイントスのゲームが始まって、ゴトーさんのパフォーマンスに圧倒される。

最初にレオリオが脱落し、次の次ではクラピカとわたしは示し合わせて答えたが、お互いに見えなかったのは分かっている。

クラピカとゴンが残ったが、はっきり見えているのはゴンだけだろう。
次のターンではクラピカも脱落した。


一人きりとなったゴンは、顔の腫れを潰して血を抜いて、万全の視界で勝負に挑む。

とんでもない速さのコイン移動に、ついていくゴンの動体視力はずば抜けている。

わたしはもっとトレーニングをしなければならない。
動きを追えないことが悔しかった。









「ゴン!!」

「キルア!」

再会し、嬉しそうにゴンとキルアが叫ぶ。

「クラピカと、えっとリオレオも!」

「レオリオだ!」

「わたしもいるよー、キルア」

「マジかよ、ナナミも来たのかよ」

「なんかわたしだけ対応ひどくない? 反抗期?」

道すがら話を聞いていれば、キルアは旅立ち?の許可がお父さんから出たとのことで、これから色々なものを見に行きたいらしい。たぶん、ゴンと一緒に。


これからのことについて、改めて それぞれが話す。

ゴンはもちろんお父さん探しの旅にでる。
それにキルアを誘っていた。
仕方ねーから付き合ってやるといいながら、キルアは嬉しそうだ。

レオリオはこの間二人の時に話した通り。
医大受験にむけて勉強する。故郷に帰るということだった。

そしてクラピカ。彼は緋の目の情報と雇い主を探す。
いよいよブラックマーケットに通じる道を歩んでいくのだ。

「ナナミはどうするの?」

ゴンだけでなく、みんなの視線が集まっていた。

「わたしは、クラピカについて行こうかな」

「私に?」

「だってゴンにはキルアがいるし、レオリオの勉強の邪魔はできないし。緋の目を探すのに人手は多い方がいいでしょ?」

「いや、私に手助けは不要なのだよ。そもそも緋の目は闇市でやり取りなされている。ナナミをそんな危険なことに巻き込むわけにはいかない」

「クラピカには盗賊団探しの目的もあるでしょ? そっちに集中している間とかわたしが緋の目の情報を集めるよ。そうしたら効率的でしょ?」

「だめだ。危険すぎる」

「わたし一応これでもプロハンターなんですけど? IIの門も開けられたことを思い出して?」

「しかし……」

「諦めろ、クラピカ。ナナミは決めたことにはけっこう頑固だぞ」











sideクラピカ




「少し、二人で話したい……」

そう言うと三人が距離をとる。
ナナミと向き合って、オレは落ち着かない気持ちを宥めるよう心がける。


「なぜ、私に協力を?」

「仲間を助けたいと思うのは普通でしょ?」

「だが、ナナミにはナナミのやりたいことがあるのではないか?」

「うーん、今はクラピカの手伝いが一番やりたいことかな」

「正直言って、命懸けの日々になると思う。私はナナミを危険に晒したくない」

「それって足手まといだってこと? わたしじゃ役に立てない?」

「そうではない、私は……ナナミに死んでほしくないのだよ」

「そんなのわたしも同じだよ。クラピカに死んで欲しくない。傷付いてほしくないと思ってるよ」

「私は覚悟を決めているから良いのだ」

「わたしだってもう覚悟を決めちゃってるよ」

「言っても聞かないのだな……」

「どうしても嫌って言うならついていくのは諦めるけど、緋の目の情報探しをするのはやめないよ。一人でも探して集めるから」

「…………わかった」

ナナミはなぜそこまでしてくれようとするのだろう。

「一つ聞きたい……ナナミにとって緋の目とはなんだ?」

「クラピカの同胞でしょ? 大事な家族の形見を取り返したいと思うのは当然だよね。奪われたんだから、奪い返せばいいんだよ」

「なぜだ? 私の家族のことなのに……」

「クラピカはわたしの家族みたいなものだからね! だから一緒に頑張ろう? 試験の時みたいに協力し合って探そうよ」





家族――

それは弟として、なのだろうか。


嬉しいのに嬉しくないような、複雑な気持ちになった。

それでもやはり、これから先もナナミと共にいられるというのは、魅力的だと思わざるを得なかった。



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