ひだまり


『いい天気…』

私は縁側で日向ぼっこをしていた。
小春日和というのがいかにも相応しい日の午後…

気持ちよくて気持ちよくて、ついつい目を閉じてしまいそうになる。


――ちょっとだけ――


ほんの少しの間だけ、瞼をおろして目を休ませた。
眩しい光が和らいで、耳がいくらか敏感になる。

小鳥のさえずり、風の音、人の気配。
心を穏やかにこの時代の様々を感じ取っていた…


――目を閉じれば平成と変わらない…平穏な空気なのに――


この時代に居る不思議を改めて感じたりして、少し懐かしくなった。


――みんな元気にしてるかな?――


私がここにいること、ここに残ると決めたこと…

もう二度と会えない人達に、心配してくれているであろう人達に、
遠く離れた場所で元気にしてるということを伝えられたら……


――ここで知り合った大切な人達と一緒に私、ちゃんと生きてるよ――


少しの切ない気持ちを抱きながら…私の意識は途絶えた。
自分でも気付かない内に、何も無い空間を潜り抜け…夢の世界へ落ちていた。







遠くに見える彼女は、縁側に腰掛け瞑想しているようだった。
少なくとも先刻までは…

所用を終えて部屋に戻る途中で、まだ彼女は居るのだろうかと覗いたら、
先程と変わらず縁側に座っている。

やや俯いたその後ろ姿を不思議に思って考えを巡らせれば、
不安と淋しさが込み上げてくる……

故郷でも思い出しているのだろうかと思った…

それが淋しいような心苦しさを感じさせる。


――きっと私には全てを理解してやれないだろう――


ならば、今はそっとしておいてやるのが良い……
そう考える頭を他所に、身体は自然と彼女に歩み寄っていた。

戸惑いが交錯する中、背後に迫り、改めて彼女を見下ろす。
何を話しかけるか悩みながら隣に膝をつくと…

驚いたことに彼女は眠っていた……どうりで不自然なわけだ。


――器用な人ですね――


感心して眺めていると、あどけない表情に愛しさが込み上げる。


――このままでは風邪をひいてしまいますよ――


私は日暮れの近い空を確かめると、座ったまま彼女を抱きかかえて部屋に運んだ。







何もない世界に私は浮いていた。

温かくて、優しくて、とても静かで、安心する世界。


そんな中に自分の心音だけが響く。


「トクン、トクン、トクン……」


『ドクン、ドクン、ドクン……』


一定のリズムを刻んでいたのが急に力強くなった。

と同時に良い香りがする。


――いい匂い――


私は目に見えない匂いを掴む思いで、自分の身体を抱き締めた。
まとわりつく香源を離さないために……







――はてさて、この状況はどうしたものか…――


私の膝上にはしがみついて離れない彼女の寝姿。
いかにも心地良さそうにしているのを妨げるのは忍びない…

だからといって何時までもこうしている訳にはいかぬのだが、
自然に手が伸びて髪を撫で付けてしまう……

そうすることで私まで安らげるのだから不思議だ。


――もう暫くはこのままで――


このまま、日が沈むまでは独占させてもらいますね?


目を覚ましたら、小言の一つ二つは言ってやらねばなるまい。

風邪を引いたらどうするのか… 無防備にも程が有る…
通りかかったのが私でなかったなら、
運んだのが私でなかったらどうなっていたことか…


とても二つに収まらない小言を心に列挙しながらも、
今はただひたすらに優しく穏やかな表情で、髪を撫で続ける小五郎だった。





2010/12/01
サイト開設@ケ月記念☆日だまりPart.1


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