糸口
「(おはようございます!)」


朝餉に迎おうと廊下に出たら武市さんに出くわして、わたしは口ぱくで挨拶した。

簡単なセリフなら、みんな口を読んで理解してくれる。
だからわたしは、当たり前のように挨拶したり、質問することが出来る。


「ああ、おはよう」

武市さんのこの優しい笑顔を見ると、なんか元気がでる。

慎ちゃんは武市さんが笑うとこは滅多に見られないって言うけど、
普通に毎日みてる気がするんだけど……
本当に珍しいことなのかなぁ?

―――あ・でも寺田屋に来たばかりの頃は無表情が多かったかも!
……ってことは、怪しい子から気の毒な子に格上げ?

不憫に思われるのは微妙だけど……
とりあえず警戒心が解けたのは喜ばしいこと……だよね―――







みんなとの賑やかな食事が終わって、
わたしは武市さんの後ろに付いて部屋に向かっていた。

今日は龍馬さんと慎ちゃんは、これから長州藩邸に用があって出掛けるらしい。
ホントはわたしも連れて行って欲しかったけど……
こんな状態で行っても余計な心配かけるだけと思い直して諦めた。


「君はどうするんだ?」


――え?――


考え事をしていたわたしは、武市さんの話を聴いてなかった……


「聞こえてなかったようだね……僕は今日、予定がない。君はどうするつもりなのかと聞いたのだが」

――わたしは、今日はどうしよう……慎ちゃんが居ないんじゃ、お寺探しにも行けないし……――


「特に決まってないのなら、僕と少し散歩にでも出掛けないか?」

――武市さんと散歩……もしかして"趣を感じに"って事なのかな?ちょっと面白そう……――


わたしは元気に『はい』と頷いて、支度にかかるため目の前まで来ていた部屋に入った。

と言っても、女将さんに教わって作った手製の巾着に
ハンカチとティッシュや手鏡の他に、必要になるかもしれない物を詰め込んだだけ……

数分後には紺青色の羽織りを着た武市さんと、一緒になって寺田屋を出た。


外に出るとよりいっそう感じる朝の空気が清々しくて、胸がスッとする。

わたしは一体どこに向かうのだろうとワクワクして、
いつもより鼓動が高鳴っていた……



2010/11/20
やっと、次が書きたかったシーンです…我ながら前置きが長い(^_^;)
書きたい話をスパッと気持ち良く引き出せる力が欲しい(苦笑)


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