無意識の苦悩


――――ある日の昼下がり――


〜〜〜〜〜〜♪
〜〜〜♪〜〜〜〜♪
〜〜〜〜〜♪


どこからか可愛らしい唄声が聞こえてくる。

おそらくは先の月から龍馬の元、
寺田屋で預かっている彼女の声だろう。

そう察するのは容易いが……


耳を澄まさずとも部屋に伝わる
聞き慣れない響きや節に苦笑する。

「どうにもこの唄は宜しくないな」


以蔵を呼びつけて止めさせようという考えが一瞬よぎるが……
それでは彼女が哀れかと直ぐに思いとどまった。


以蔵は彼女に対しあからさまに素気なく振る舞う上に、
最近では蔑む仕草も見受けられる。

例えそれが本意ではなく照れ隠し故の言動だとしても、
それで人を意味も無く傷つけてよいという理由にはならない。



それに何故か僕は、以蔵と彼女の二人が並ぶ姿を見たくなかった。


というより、

年頃の男女が二人きりになる状況をわざわざ作ってやるなど実に烏滸がましい。
焚きつけるにも等しい行為だ……

まさか龍馬じゃあるまいに。

自分がそのような低俗に成り下がるなど、断じて有り得ない。

ここはやはり自身で出向いて忠告してやるべきか……


いつの間にか読むことを忘れられ、
机上に開かれていただけの書物に栞を挟み、丁寧に閉じ……

僕は部屋を出て、中庭に向かった。


隠匿生活を余儀なく、半ば強いられている僕等には、
異国情緒の漂う唄で人目を引く訳にはいかぬのだと伝えるために……




楽しそうに鼻唄を口ずさみ、

陽の光に包まれながら……

手際よく、洗濯物を干していた君。


――――そう 君が、とても眩しかった。


なのにその時の僕ときたら……

自然に笑みが零れている
そんなことにも気付かずに――――


白刃(はくじん)に映り込む太陽のように、

彼女を取り囲む真っ白な布が、目が痛い程に眩しい……


――――本気でそう思っていた。



――――僕は、何も分かっていなかった。


自分でも知らない内に、君を好きになっていたこと。

この時すでに、無意識に嫉妬する程……君に恋焦がれていたことに――――








2010/11/03
初めて書いた武市さん。
前夜の一筆だが途中で寝落ちして、朝の6時に寝ぼけ眼で再びtry。噛み合ってるか心配…


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