赤い実はじけた


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三章 土の日の指令 side E


 騎士団の訓練場で鍛錬していた騎士の一人に、オルドナンツが届く。

「エックハルト、ユストクスだ。喜べ、其方によく効く特製回復薬が届くことになった。今日中に取りに来れば分れてやれよう」
「……ッ!」

 伝言を聞いた騎士ことエックハルトは、瞬時に顔色を変えた。喜びが隠しきれず、今すぐにでも行きたくてたまらないという様子が滲み出ている。
 その様子に内心で驚いていたのはその場の指揮を取る騎士団長ことカルステッドである。エックハルトはカルステッドの長男で、最近はめっきり笑顔を見ることがなくなっていた。その息子から、久方ぶりに喜色が滲んでいるのだ。驚くなという方が無理な話である。

「……エックハルト、注意力が散漫になっている。特製回復薬とやらがそんなに楽しみか?」
 若干の揶揄を込めてカルステッドは不備を指摘する。
「はっ、申し訳ありません。……その、滅多に入手できぬ貴重な薬ゆえ、つい思考が削がれてしまいました。集中します」
「それほど珍しいものか?」
「時にはアウブも重宝する薬だと聞き及んでおります」
「ん? もしや、アレのことか? 効果は高いが毒より不味い……」
「はっ、私には至高の薬でございます」
「よくアレが飲めるな……其方の場合は、まぁ当然なのか?」

 作り手が誰であるかを知っているため、彼にとっては最高の褒美なのだろうとカルステッドは納得した。それが例えこの世のものとは思えないほど苦くて臭くて悶絶しそうな味だとしても、主から下賜されるものなら彼にはそれこそ特製回復薬なのだろう。現に、手に入ると分かっただけで浮つくほど喜んでいる。どこか暗さの残る表情で鬱(ふさ)いでいたのが嘘のようだ。
 鍛錬が終わった途端、瞬く間に飛び去っていく息子の後ろ姿を視界の端に入れながら、カルステッドは少しだけ安堵していた。

2023/04/02



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