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 大波乱のビンゴ大会が終わって一旦落ち着いた広場だったが、今度は花火大会のために再び住人が集まってきた。何本か手持ち花火をもらったフクシアとヘンルーダは、ベンチに腰掛けているデルタを発見して駆け寄る。眉間にシワを寄せるデルタを挟むように腰掛けた。

「マジ両手に花〜!」
「どこに花があんだよ」
「わかってるくせに〜」

 きゃっきゃと楽しそうな双子に挟まれ、デルタは背もたれに寄りかかり、はあ、とため息をついた。花火大会の喧騒に混ざり、双子には聞こえなかったようだ。

「ガキには興味ねぇよ」
「どんなのがタイプなの? アタシ?」
「興味ねぇっつってんだろ中学生。もっとグラマラスになって出直してきやがれ」
「ルゥは胸ないもんね〜」
「フーだって似たようなもんじゃん!」
「私はママ似だからおっきくなるもん」
「そりゃアタシっしょ、くせっ毛だし」

 デルタを挟んで言い合い始める。余所でやれよと思いながらデルタが夜空を見上げると、先程より雲が減ったようで天の川が姿を見せ始めた。フクシアもそれに気付き、同じように空を見る。

「良かった、晴れてきたね」
「ホントだ。叶わないかと心配だったよも〜」
「“天の川が見れますように”とでも願ったのか」
「ううん、違うよ?」

 安心したような雰囲気から予想したが、全然違う、と双子は首を振った。不思議そうなデルタに、双子は言葉を続けた。

「パパがママと逢えますように、って願ったの」
「七夕ってさ、離れ離れになった彦星と織姫が一年にたった一度だけ逢える日でしょ? パパとママもさ、そうなればいいのにって」
「でも一回だけじゃなくてずっと一緒にいたいよねぇ」
「? お前らんとこの母親は旅行に行ってるんじゃ?」
「パパはそう言ってるけど、アタシらはそうじゃないと思うんだ。あっパパには秘密ね?」

 疑問符を浮かべるデルタに、ヘンルーダが慌てて人差し指を立てる。

「だって十年以上も旅行なんて。最低でも一週間に一度は電話して来る寂しがり屋なママが、そんなに長く旅行なんて変じゃん。寂しいなら帰ってくればいいのにさ」
「それにこの町に来る前までママも一緒だったのに“ママはここに住まないで旅行に行った”なんて、今考えるとおかしいもん」

 双子はうつむきがちに、デルタに聞こえるくらいの声量で話す。

「…ヴァルトさんに、それ言ったのか?」

 デルタの問いに首を振る。数年前からずっと思っていたことではあったけれど聞けないでいた。聞いてはいけないような気がしていたから、聞いて父親に困ったような哀しいような顔をさせたくなかったのだ。
 言っても叶わなくなることはないってディオさん言ってたし、言っちゃったけど大丈夫だったよね? とヘンルーダがデルタに確認してくる。知らん、と短く返したデルタは、また空を見上げる。デルタもこの町に来る前は別の所に住んでいた。けれど引っ越した後も両親は欠けることなく、直後にアストが増えただけだ。
 家族全員で暮らせているのはもしかしたらウチだけか? 一番恵まれているのかも知れないな、とそんな考えがデルタの頭に浮かぶ。だが本当のところはわからない。家族が揃うことが幸せ、とは全ての住人には当てはまらない気がしたからだ。
 いつの間にか双子はベンチに座ったままで線香花火をしていた。そろそろおひらきだ。
 デルタが立ち上がろうとしたら、ヘンルーダが、あっ、と声を上げた。恨めしそうにデルタを見ている。どうやら線香花火が落ちてしまったようだ。

「急に動くから!」
「いや知らねぇし、人のせいにすんな」
「ふふふー、私の勝ちね」
「なんだよ勝ちって」
「くそー邪魔が入らなければ勝てたのにぃー」

 邪魔呼ばわりにデルタが苦笑する。直後、花火の上がる音が響いた。
 色の無い夜空にパッと広がった花火を、その場にいた住人はひとりの例外なく見上げていた。花火が消えた後も余韻に浸るように夜空を見上げている。そして再びあちらこちらから話声が聞こえ始めた。燃やす七夕飾りを集めるために、広場から次第にヒトが減っていった。

「おーいフクシア、ヘンルーダ。家の飾りを運ぶの手伝ってくれ」
「あ、パパ!」
「はーい! デルタさんまたね!」
「はいはい」

 手を振るヴァルトに返事をして去っていく双子を見ながら、デルタも運ぶ手伝いをするためベンチから立ち上がる。

 全ての飾りが集められた頃、雲は大分はけて快晴に近かった。これなら彦星と織姫が出逢えると誰もが思うことだろう。住人が見守る中、それぞれの願いを載せた笹に火が灯された。





参考→バリコタウンの七夕日程



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