「今日、隣町の黒曜高校から転校してきました、六道骸です。どうぞよろしく」
にっこりと爽やかスマイルで挨拶をすれば、女子からは悲鳴。男子からは絶望したような表情を向けられる。
「家庭の事情で1か月ほどだが皆のクラスメートとなる。仲良くするように」
「「「はーい」」」
小学生か!
元気に手を挙げて返事をする生徒に骸は心の中でつっこんだ。
本来骸はつっこみの才能など持ち合わせてはいなかった。むしろ、自分の欲求のままに動き悪戯をし、つっこまれる方だった。
そんな骸がつっこみのスキルを手に入れた理由はわかっている。
確実に、綱吉のせいだ。
ホームルームが終わり、10分程度の休み時間に入ると、骸の周りには女子が群れに群れてきた。
こんな時にはいつも群れるな、といいながら咬み殺している雲雀の姿を思い浮かべてしまう。
できることなら今すぐこの教室にきて蹴散らしてほしいと願わずにはいられない。
爽やか少年であることを強いられている骸にとって、この状況をどうにかするにあって必要なのが雲雀恭弥という存在なのだが、現実がそんなに優しくできていないことは骸だってよく知っている。
どうしてこうなった。
1つ1つ丁寧に質問に答えながら、骸は昨日のことを思いだした。
「というわけで、骸」
「……何でしょうか」
「並高に転校よろしく!」
「お断りさせていただきます」
とても良い笑顔で親指を立てながら言った綱吉に、骸も負けない良い笑顔で断る。
骸としては、一応霧の守護者としての自覚もあるし、ボンゴレというマフィアは嫌いだが綱吉のことは人間として好ましいと感じている。
一部の他人には絶対に話せない性格を除いてだが。
普段なら綱吉のお願いくらいきいてあげてもいいのだが、今回はそういうわけにもいかなかった。
何故なら。
「爽やか少年設定ってどういうことなんですか!」
「だって、骸って喋らなかったらそんなかんじだもん」
「え、それって遠回しに僕の性格が最悪だと言ってませんか?」
「……」
「ちょっと、あなたそんなこと思ってたんですか!?」
「いやいや、冗談だよ、冗談。…たださ、骸って身内だと認めていないものにはとことん外道を貫くからね。そう言ってみただけー。………本音を言うとさ、骸以外に適応者がいないんだよ。まあ、いないってわけじゃないけど、このことにおいて私が一番信頼して任せられるのは骸なんだ。だから、お願い。引き受けてくれないかな?」
そう言われて引き受けない者がいるだろうか。いや、いない。
初めてあったときには、上に立つものとして必要なものが全く無いと感じた。
今でも、足りないものは沢山ある。例えば、冷酷さとか。
でも、それでも誰もが彼女の暖かさに惹かれてしまうのだ。そして自分もその中の1人。
だけど、どうしても、納得のいかないことがあった。
「…わかりました。引き受けます」
「本当に!?ありがとう、骸!」
「…ただ、1つだけ気に入らないことがあります」
話を聞かされたとき、爽やか少年以上に気になって、それが嫌だから決して受けないと決意していた。爽やか少年を建前に否定して。
骸はほとんどの守護者が苦手だ。
嫌いではない。ただ、どうしても苦手なのだ。
兎に角、性格があわない。
逆に好んでいる綱吉や恭弥とは良好の関係を築けている。
2人といる時間は誰にも言ったことはないが骸にとって癒やしの時間だった。
だから。
「何で綱吉君と恭弥君との関係を隠さないといけないんですか!拷問ですよ、拷問!2人と同じ学校にいるのに話せないなんて嫌ですよ!」
「む、骸かぁぁわいぃぃいい!!大好きだよ!私と恭弥さんの子供になって!」
なんて馬鹿なやりとりをしてしまったのだ。
今思い出したら恥ずかしいことこのうえない。
だけど。
去り際の、綱吉の言葉を思い出す。
「お昼休み応接室に来てね!私、3人分のお弁当を作ってくるから」
骸は一瞬、六道骸本人の笑みを浮かべた。
そのことに、誰も気付かない。
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