*仙食前提で仙蔵の独白
*卒業後



暦が春から夏に変わる今日。
私が仕えている城の主は、暖かくなった事に気分を良くしたのだろう。満開の梅を愛でるでもなく、活動を始めた動物を愛でるでもなく、酒宴を開くでもなく、戦を始めた。
戦好きな主のやることだ、然しも驚く事はない。が、前者三例ならばまだ良かったものを。
何故不利益な戦に楽しみを見いだせるのか全く以って理解できない。


そして現在、私が居るのは当然の如く戦場。
さらに詳しく言うならば、森の中、そして一つの骸の前だ。
戦場なのだからそこらにたくさん骸はあるが、私は特別な骸の前に居る(特別なとは言っても所詮は肉塊だが)。

その骸は知り合いの物で、
更に言うなら学友の物で、
更に言うなら恋人であったもので、

更に言うなら、
食満留三郎のものだった。


骸の顔は周囲に転がっている物のように醜く歪んでいなく、彼の端正な顔をなお一層際立たせる表情、つまり微笑んでいた。

こいつと対峙したのは私で、こいつを殺したのも私で、

彼を誰よりも愛していたのも私だった。


彼を殺した後にきた感情は、悲しみでもなく、ましてや喜びでもなく、悔しさだった。

殺した事を悔やんでいる訳ではない。

約束を守る事が叶わなかった事への悔しみだ。

約束とは、丁度今から五年前、学園を卒業した後に一度だけ皆と顔を合わせた時にしたもので、
『五年後の今日、またこの場所で皆で会おう』
というものだった。

皆、無理なだと分かっていての約束だった。

無理だと知りながら、私は『ああ、必ず来る』と嘘を吐いた。
皆も同様に嘘を吐いた。

しかし曲がりなりにも約束で、私は私なりにそれを本当にしたかった。


だが結局私は嘘を吐いてしまったことになる。

今日という日にその場に行けなかっただけでなく、
『皆で会おう』の『皆』の内、一人を消してしまったのだから。


そして今日もまた一つ、私は嘘を吐いてしまった。

留三郎が私に最期に言った言葉、
『生まれ変わっても、俺はお前を忘れない。
お前も、俺の事を忘れてくれるなよ』


私はそれに、
『勿論だ』と答えた。


この先の人生、長いか短いかは分からないが、生まれ変わっても覚えているなんて、そんな事は可能なのだろうか。
不可能ではないか。


留三郎の骸を見遣ると、先と変わらぬ表情をしていた。
当たり前だ。変わっていたら困る。


私は衝動のまま、手が血だらけになるのも厭わず、留三郎の左胸に手を乗せた。
そして目をつむり一人、ひっそりと誓う。誓わなければならない気がした。

この約束は、嘘にしないと。必ず本当にすると。


目を開けて留三郎の顔をしっかりと目に焼き付けると、後ろも振り返らずに木々の間を走る。ひたすら走る。顔を流れる血でない液体を振り払うために。


森から出、開けた地へ出ると、我が方の勝ちらしい、狼煙が上がっていた。

それを確認して足を止めると、顔を流れる液体はもう止まっていた。

ふと横を見ると、戦場にあって尚、小さな青い花が群生しているのが目に止まった。なんの花だろうか。よく分からないが、そこから一つだけ採って森の入口に手向けさせてもらう。
緑と茶の中に一つだけ青がぽつりとあるのがなんだか気に入って、私は少しだけ笑うと、再び本陣へ向かって走り出した。




人生最大の嘘
(嘘は本当にするためにあるんだ)





エイプリルフール!!