episode.6 待ち合わせをした。 相手はもちろん、大門さん。私の住んでいるアパートのお隣りさんで、かっこよくて、優しくて、考えていると、いつもどきどきしちゃう人（今もどきどきしてる！）。 隣りに住んでるんだから待ち合わせなんかしないんだろうなって思ってたけど、大門さんが待ち合わせをしてみようと言うから、そうすることにした。 どうしてだろうと首をかしげそうになった私に、大門さんはゆっくり笑いかけて、これってデートだろ、って。 うわあああああ！ 思い出すと熱くなる！ 一緒に映画を観にいく約束をしたのが昨日で、だから、その記憶はまだ、新しい。ぽーっとしてしまう。 大門さんってどうしてあんなに、さらっと、心臓を跳ねさせることを言うのかな。慣れないから困っちゃうよ。 せっかくのデートだから街まで出て、大きな映画館に行くことにした。前から気になっていたところだから、楽しみ。 待ち合わせ場所はその街の有名な駅前で、電車の乗り換えをうまくこなした私は、案内標示を睨みながら目的地に向かった。 腕時計を見る。待ち合わせ１０分前、完璧だ。 「……あれ」 駅を出ると、黒い服を着た、長身の男の人を見つけた。まだ遠いから自信はないけど、大門さん、かな。 ちょっと早足になる。男の人はどんどん大きくなって、大門さんになった。 「よう、柊」 笑いながら片手を上げるその仕種に、私の胸はもういっぱいになった。 「あ、あの、おはようございます！ お待たせ、しました？」 「いや、そんなに待ってないよ。つーか、まだ、待ち合わせた時間の前だし。おはよう」 黒いカッターシャツをカジュアルに着こなした大門さんはやっぱりすらっとしていて、道行く人たちの注目を浴びていた。 うう、ワンピースにしてみたんだけど変じゃないかな……。 「優秀、優秀」 私に近付いた大門さんはそんなふうに言って、頭をぽんぽん撫でた。 「今日の柊、なんかかわいいな」 「あああありがとうございますすす」 「ぶはっ。なに？ 緊張してんの？」 「こ、こういうの初めてなものでしてっ」 どうすればいいんだろう、と思っていたら、「行こうか」と声を掛けられた。見上げた先の大門さんは静かに笑っていて、私の心も少しだけ落ち着いた。 どきどきするけど、大門さんのリードがあれば、きっと、うまくやれる気がする。今日はきっと、楽しい一日になる。 「お隣りさんなのに待ち合わせって、変な感じですね」 「ははっ、わかる。でもさ、こういうのもいいだろ？」 「はい！」 私も笑った。 ［しおりを挟む］ ← |