episode.? 恋は罪だ。 それは理解しているつもりだった。 昔の自分を嘲笑いながら、私は彼女の隣りを歩く。彼女の新しい守護テンシはとっくに焼き滅ぼしたし、彼女に近付く野郎どもには不幸をプレゼントした。 彼女のそばにいるのは私だけで十分だ。 彼女はとても可憐で、無垢で、純粋だ。前を向いて笑っている姿が最高に映える女の子。 小さいころから、ずっとそばで見守ってきた。つらいことがあっても、彼女はめげない。悲しいことがあっても、彼女は立ち上がる。 私はしなやかな彼女に恋をした。 地上に近い者ほど堕ちやすいという事実は常識として頭の中にある。地上には欲が充満しているため、非情なまでに白いテンシたちは、その影響をもろに受けてしまう。 それを悪とするのがテンシというものだ。 悪は何もない場所から生まれない。善を語る者がいてこそ生まれるのだ。 アクマも同じ。何もない場所から生まれはしない。テンシが堕ちてダテンシになると、それはアクマと呼ばれる。 罪を犯した私はダテンシになり、アクマの仲間になった。非情なまでに白かったテンシが一度黒く染まると、もう元には戻れない。 だけど、私は、テンシが善でアクマが悪とは思わないし、テンシに戻りたいとも思わない。恋を禁じた神を憎み、テンシの考えは悪だと信じる。 「さっきから、どうしたの? ずっと、難しい顔してるよ?」 「えっ」 正面に回り込んだ彼女が心配そうな顔をして私を覗き込んだ。考えごとをしていたのがバレたらしい。 「なーんか、上の空で! わたしの話、聞いてないし」 「あー、すまん」 「何を考えてたの?」 少しむくれた彼女がいとおしくて、私はついつい笑ってしまう。 君のこと、って答えようかと思ったけど、私はもうテンシじゃない。嘘だってつける。 「今日あった小テストの答え合わせ、してたんだ」 「そんなのあとにしてよー」 どこかほっとした様子の彼女は私の正面から横に移動して、また、何ごとか話し始めた。 好きな人のことはいつだって考えちゃうものなんだよ。心の中で弁解して、私は彼女の話に相槌を打つ。 ふわっとした横顔も、白い肌も、綺麗な目も、くりんとしたまつげも、伸ばしている髪の毛も。まだ恋を知らない瞳も、唇も、体だって。 全部、私のものにしてしまいたい。 高鳴ったままの心臓が私を突き動かす。 「っ……」 少しびっくりしたような彼女。 私は彼女の手を握っていた。 私の望むものがどれも手に入らないのなら、せめて体温だけでも、感じてみたくて。 [しおりを挟む] ← |