prologue あの、私がお世話になってる激安アパートは二階建てで、一つの階には部屋が三つある。 一階の101号室が大家さんの部屋。102号室は、大家さんの知り合いのおじいさんが住んでいる。103号室にはまだ若いサラリーマンがいて、二階にいるのは私だけだった。 201号室も203号室も空き家だったから、天使くんは初めての「お隣りさん」なのである。 そのお隣りさんが街を案内してほしいと頼むものだから(しかもあのエンジェルスマイルは極め付けだった)、私は休日を返上して彼とぶらぶら歩いているわけだ。 まあ、今日は家にいてもすることないんだけどねー。 それにしても、天使くんはどこにいても目立った。 まずはほら、食料品を買える場所とか知りたいだろうから、近くの商店街に連れていってみたんだけど。 「なつきさんはいつもここで買い物してるんですか?」 「たまにねー」 「たまに?」 「私、そんなに料理しないから」 「体に良くないですよ? オレ、何か作りに行きましょうか」 「有り難いなあ……」 とか何とか話してみてるけど、そこまでシャッター街になっているわけではないこの商店街では、道行く人の視線が何だか気になった。 そりゃそうだよね! 天使くん、髪の色はまだしも目の色はありえないしさ、着てるジャケットがジャケットなんだもん! 背中にふわっふわしたかわいい羽が付いてるんだもん! コスプレみたいに! でも、人のファッションにどうこう口を出せるほど、私のセンスは良くはない。 「さっきからどうしたんですか、なつきさん。オレの話、聞いてるようで、聞いてないですよね」 ちらりと上目遣いをされて、そのあまりのかわいさに、私は狼狽えそうになった。こんなにかわいい男の子が私の隣りにいていいの!? 動揺を隠すために話題転換を計る。 「そっ、そういえば天使くん、天使くんはどこの高校に行くの?」 「高校? ああ……」 「言いたくないならいいけどさ、お隣りさんだし!」 「オレ、社会人ですよ」 ……空耳? 聞き間違い? シャカイジン? 「まあ、そういう反応されても仕方ないって分かってるんですけどね」 ということは、何か。 この子はもう大学を卒業したのか。じゃあ年上ってこと? いやいや、中卒、高卒と、可能性は無限大。 外見から年齢が読めない。 [しおりを挟む] ← |