episode.2


 天使くんはたまに変なことを言うなあ。
 2回通りくらいはうなじを拭いてから、天使くんの指先が傷口をなぞったように思う。私には傷がどんなふうになっているかわからなかったから、ちょっと恥ずかしかったけど、それよりもくすぐったさが勝った。

「もう、やめてよ」
「消毒代わりです」
「そんなのより絆創膏出してよー」
「わかりました」

 無理難題だろうと繰り出した要求にあっさり返事をして、どこに持っていたのか、天使くんは少し大きめの四角い絆創膏を貼ってくれた。
 何故こんなところで頼りになるのやら。それでも一応、お礼は言わなくちゃ。

「ありがとー」
「どういたしまして。あの、絆創膏の見返りにしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「へっ?」

 さっきの絆創膏は有料サービスだったのか。

「う、うーん……何をするの?」

 見返りに「してほしいこと」ではなく、「したいこと」を提示するあたり、妙ちきりんだ。


「簡単なことですよ。もう一度、キスさせてください」


 ……。!?
 こやつ、私の顔を指差した上に、ミラクルキュートな笑顔で何を言った!?

「なつきさん、相当、危ないですからね。今のうちにしておかないと」
「いやいやいや! 意味わかんないよ!」
「アイツに取って食われちゃいますよ?」

 アイツって、大門さん?
 嘘だ。私には、大門さんより先に天使くんに取って食われそうな気がする。

「嫌ですか?」

 にっこり微笑んで首なんかかしげた天使くんはスーパープリティで、思わずノーと言いそうになったけど、そこは堪えた。

「あ、あのね、天使くん。キスっていうのは好き合ってる人たちがするもので」
「オレはなつきさんのこと好きですよ」
「ふえっ!?」

 どうしたの天使くん!
 今日はその形の良いお口から恥じらいを感じさせるワードばかりが飛び出てきてますけど! 惚れ薬でも飲んだの?

「……なつきさんが嫌って言うなら、しませんけど」

 その代わり、と続けて、天使くんは自分の唇を軽くなぞった。そう、私の首筋をなぞったときみたいに、軽く。

「ひとまずはこれで」

 そして、その指でそのまま、私の唇に触れた。


 私は恐らく、失神した。



 つづく

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