episode.2



 あの後の大門さんは、何事もなかったかのように振る舞った。それは私もそうだった。
 商店街を出て、デパートへ行ったり色々なお店を巡ったりして、たくさん歩いた。

 実際、何にもなかったんだけど、私は混乱していた。

 だって、期待しちゃうじゃない。大門さんみたいに素敵な人が、あんな思わせぶりなことを言うんだから。
 だから、私はどこを歩いていても上の空でいることが多くて、大門さんもちょっと困っていたように思う。でも、そんなの、不可抗力ってやつだ。

 そんな私に呆れたのかもしれない。大門さんは日が傾き始める前に、もうアパートへ帰ろう、と、私の手を引っ張った。

 そう。
 手を、引っ張った。


 ……!?
 ちょっと待って、大門さんは何をしているの!?

 どばっと手汗が吹き出たような気がして、私は握られた手をもぞもぞ動かした。恥ずかしいよ!
 大門さん、何を考えているんだろう。私のこと、どう思っていたらこんなことをするの? だって会ったばかりで、それなのに。もしかして、妹みたい……とか?

 あ、たぶん、そうだ。

 5秒ほどで出た結論に妙に納得して、私はその手を振りほどこうとした。妹みたいに手を繋ぐなんて、そんなの嫌だ。私は大門さんの妹なんかじゃない。

 何とか格闘してみたけど、半歩前を歩く大門さんは涼しい顔をして(実は顔なんて見えなかったけど、雰囲気がそんなだった)、私の手を強く引く。
 がっしりしていて、男の人って感じの手だ。どきっとするくらい、たくましい。天使くんとは違う、たくましさ。

 これほど抵抗しているのに、離してくれない大門さんも大門さんだ。変に頑固だ。
 いくら私がさっきまでぼーっとしていたからって、勝手にはぐれるとでも思っているんだろうか。

 ここはもう直接言うしかない。
 大通りを折れて路地に入ったとき、私は思い切って口を開いた。

「大門さん!」
「ん?」

 ちょっとこっちを向いた大門さんに、私は息を飲んだ。

「あの……手」

 その顔の角度が、何とも言えず、大門さんの魅力を引き出していたから。

「あー、手か」
「えっと、その……」
「ダメ?」

 ダメだ。
 この大門さんには敵う気がしない。

「……そうか」

 一瞬躊躇ったのがわかったのかもしれない。だとしたら、大門さんはかなり感覚が研ぎ澄まされてるってことになる。

 あっさり離された手に未練を感じた私。大門さんにはすぐ気付かれたみたいで。

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