そんなものは要らないと思っていた。自分は寂しくない。悲しくもない。まして、苦しむなどという行為は、不相応なことだと思っていたから。 そして、もしも、限りなく低い確率の話で、そんなものを受けるとしたなら。それは「彼の幸せ」なのだと、思い込ませた。 それが何を意味しているのか、少女はまだ気付かない。 慰める ‐Solace‐ ばかみたい。 吹き荒ぶ冬の冷たい風に震える、教室の前後の引き戸。冬休み。一人足りない部活動。 どうしようもなく寒い上に部員が足りないので、軽音楽部の三女子生徒はカイロを片手に話し合いを始めた。議題は後輩である男子生徒Kの無断欠席の理由について。 部長である女子生徒Aは「風邪を引いた」、「急用が入った」などの予想を上げたが、それならば連絡くらいはするだろうと、平部員である女子生徒Cにあっさり否定された。 その女子生徒Cは「単なる連絡忘れ」、「単なるサボり」と散々な予想をした。副部長である女子生徒Uがそれは偏見が入りすぎていると否定。 視線はもちろん女子生徒Uに集まる。彼女はむっとしたような表情の後、言ってもいいのかな、と、口の中でつぶやいた。 思い出される、冬空。暴れるマフラー。外気温が原因ではないであろう、固い表情。 「……あたし、大嶋くんのこと、傷付けちゃったから。それで、会うのが気まずい、のかも」 女子生徒Uは目を泳がせた。 「傷付けた? みっちゃんが圭くんを?」 「う、うん。そう、かも」 女子生徒Aにとって、歯切れの悪い女子生徒Cというのは、ガラスの靴を履けないシンデレラと同義である。 しばらく様子を見ていると、シンデレラである証拠を見せられない女子生徒Uは、意を決したように口を開いた。 「あたし……告白、されたんだ」 それはもちろん、王子さまにだろう。女子生徒Aは笑おうとして、笑った。 「えーっ。私たちには何にも言ってなかったのに。あやつ、薄情者だ!」 ねえ、返事はどうしたの? 続けてそう尋ねた女子生徒Cの声が一瞬だけ遠のく。 「断ったよ」 「うええーっ。なんでよ」 「あたし、えっと、実は」 「他に好きな人がいます……とか?」 「えっと。付き合ってる人が、います」 女子生徒Aはずっと、笑っていた。時には困ったように。驚いたように。悲しそうに。そうしている自覚は彼女にきちんとあった。自分が笑っている、自覚は。 しかし現実はどうかというと、それは非常に曖昧なところだった。 頼りになる副部長、女子生徒Uと、頼もしい平部員、女子生徒Cの話す声はやはり、遠い。 ばかみたい。 代わりに響いた声は教室に跳ねず、ただ、女子生徒Aの中にだけ反響した。 そんなものは存在しない。存在し得ないことくらい、本当は。 top |