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ぼくの天使。
-Boy meets girl.


 高く、その上強度のある石垣で土地をぐるりと丸ごと囲まれた大きな街がありました。
 その街には建築のエキスパートばかりが住んでいますので、ここではその街を「建築の街」と呼ぶことにします。
 建築の街に、ある一人の男の子がいました。名前をシュティルといいます。シュティルは山の奥にある名前もない村から建築の街へやってきたばかりでした。彼の父親が優れた建築士だったのです。
 村の仲間たちと別れて、楽しいことが見付けられずに、大きな街の中を毎日ぷらぷらと歩いていました。建築の街の情報は門外不出なので、シュティルは自由に街を出ることができないのです。
 そういうわけで、シュティルは今日も街をぶらつきます。そびえるような石の壁に沿って歩いているようですが……?


「案外もろいところがあるんだなあ」
 関心のあるような物言いをしてみた。でも本当はそんなもの微塵もない。
 正直に白状すると、ぼくはこの街にこれっぽっちも魅力を感じていなかった。自然の川はないし、空は狭いし、澱んでいるし、森もない。この灰色の街にあるのは、煉瓦でキレイに囲まれた排水溝くらいだ。みんな、それを「川」って呼んでるんだけどね。その「川」ってのは多分、どぶ川の略称だと思う。
「こういう壁って建築とかで重要なとこじゃないのかな、なおざりだなあ」
 で、さっきからぼくが感想を並べてるのは、この忌々しい監獄みたいな街を囲んでる石壁についてのことだ。そのへんに落ちていた少し大きめの石ころで叩いてみる。
「ぼろいのは見た目だけってわけね」
 予想に反して、壁はびくともしなかった。
「あーあー、つまんないなあ」
 この街は大きいけれど、人口は都心に集中しているせいで、外壁のほうには人が全然住んでない。土地も安いんだと思う。ごみの不法投棄とかで環境もよくないから、誰もいない。街の中心部からこっちに歩いてきたぼくは、途中から、人とすれ違わなくなった。
 視界に一瞬黒い影が飛び込んできた。顔を上げる。
「鳥だ!」
 大きな鳥、多分猛禽類。ぼくははしゃいだ。初めて中型の鳥を見た都会っ子のように、空に弧を描く鳥を追い掛けた。

 結果、道に迷った。
 鳥も見失ったことだし、息を切らしながら辺りを見渡すと、どうやら雑木林の中みたいだった。光が差さないほど鬱蒼としてるわけじゃないけど、ここも何だかおざなりの林みたいで居心地が悪い。
 しかしぼくはわりとポジティブだった。壁に囲まれた街だし、この短期間で迷ったのなら、また壁沿いに戻れば簡単に帰れると踏んでいた。余裕を持ち、散策なんかしてみる。居心地が悪いとは言ったけど、あの汚染された街よりは幾分ましだ。
 うろうろしていると、ぱっと視界が開けた。
「洞窟……?」
 雑木林の奥だか入口だかわからないけど、どちらかに向かって進んだら、目の前に真っ黒な穴が現れたのだ。軽く走り寄って中を覗き込むと、遠くに光が見えた。間違いなく、どこかに繋がっている。
 穴の入り口の周りをちょこっと調べてみると、あろうことか、それは外壁に開いた穴であることがわかった。石垣に苔が生え、つる草が伸びて、雑木林の一部に見えていただけだったのだ。
 と、いうことは。



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