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 思い返されるのは、半年前に出会った女子生徒の柔らかな笑顔が半年分。

 ──大嶋くん、物覚えが良くてびっくりだよ!

 いつでも、そう。



 つめる ‐Stare‐



 ロマンチストな部長。
 天真爛漫な副部長。
 好青年のような性格の先輩。

 そこに、自分がいる。

 男子生徒はそれが誇らしかった。他でもない自分が彼女たちの親しい後輩であること、その風景の中に居られること、彼女たちが先輩であること。何もかもが幸運の先にあるものだと思い、得意になっていた。

 これほど高校生活を謳歌している生徒なんて他にいるものか、自分は幸せだ。

「あ、大嶋くん、そこ押さえ方違う。こうね」

「え、すみません。ありがとうございます……こう、ですか?」

「そうそう、うまい。気を付けてれば直るよ」

「はい」

 初めて触ったというわけでもないのだが(知り合いに少し見せてもらったことがある)、ギターのコードをうまく押さえるという動作にはなかなか慣れなかった。それでも、彼の指導を自身のギターを使ってする女子生徒は根気よく面倒を見てくれていた。

 たまにする基本的なミスも呆れることなく指摘し、先生としてはかなり丁寧なほうだったように思う。

 彼女の横顔に動悸。
 練習にいまいち集中していないことがばれてしまうのではないかと、男子生徒はかぶりを振って手元のギターに目を向けた。



 手入れでもしているのだろう、艶やかな髪を様々な形に整えて、いつでも彼女は彼を飽きさせなかった。

 大きくも小さくもない目は無邪気に笑ったり、真剣に楽器を見つめる。ほんのりとしたピンク色を乗せた目じり、ふっくらした頬や横顔のラインはバランスが取れていて、触れたら温かく柔らかそうだ。

 よく通る声で話し、冗談を言い、叱り、褒める。

 着飾ったりしない、有りのままを思わせる頼りがいのある性格に、部員たちはさぞかし助けられたことだろう。彼女のいない部室はほんの少し物寂しい。

「大嶋後輩!」

「うあ、えっ、はい!」

 ぼんやりしていると、いきなり名前を呼ばれた。目の前には女子生徒が一人。

「な、んですか、先輩」

 はあ、溜め息をつきつつ肩に手を置かれる。

「ここのところ、美優もぼーっとしてるけど、あんたもだね」

 そう言った彼女にてくてく歩み寄った女子生徒も、男子生徒に心配そうなまなざしを向けた。普段は穏やかな彼女が見せたその表情に、男子生徒は、う、と言いよどむ。

「圭くん、みっちゃんに見とれすぎ」

「……すみません。意識しちゃうと、その」

 体中の熱が上がる。
 そんな男子生徒に、二人の女子生徒は微笑んだ。

「美優は幸せ者だね」

「うん、圭くんの想い人は大変だー」

 ああ、本当に。
 こうして誰かを想う自分を見守る存在がいること、それはとても幸せなことなのだろうと彼も微笑んだ。


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