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 もしかしてと思ったときには、遅かった。

 自分たちの代で終わってしまう軽音楽部。そこで織り成された恋物語の真の犠牲者に、とある女子生徒は気が付いてしまった。



  ‐Want‐



 問いただすほかない。
 1人で考え込んでいても無意味だ。それが正解か否かであることは聞かなければ分かるはずもないのだ。

 その女子生徒は廊下を歩き回って、ある人物を探した。共に帰る約束を取り付けなければ、できるだけ早くに。



 5月の麗らかな日、受験勉強ということで学習会に出席していた彼女は、その授業の合間合間に高校生活のことを振り返っていた。1年、2年とあっという間で、特に楽しかったのは、授業後の部活の時間。部員は少なかったが、時に笑い時に悩みという感じで、あれが青春だったのかもねと微笑む。

 心残りなのは、後輩の恋愛の手助けがきちんとできなかったこと、だろうか。

(でも、美優ってば水臭いよね。彼氏いるなら教えてくれれば良かったのに)

 くるり、ペンを回す。

 1年生の男子部員の恋愛を応援してきたつもり、だった。それなのに、そのお相手の現状が把握できていなかったというのは先輩としても仲間としても、つらい。

(立ち直ったのかな)

 男子生徒が彼女とそのときの部長に自分の想う人を伝えてくれた日は、もうすぐ秋だというのが信じられないほど暑かった。

 1つの机を3人で囲んで彼を質問攻めにして──。

(……あれ)

 しかし、彼女は、その思い出の中に引っ掛かりを覚えた。終始照れ笑いをする後輩、ぽわぽわ笑う女子生徒、それを突っついて遊ぶ自分。

 いつもの図。

 けれど、彼女はおぼろげな記憶を頼りに、できるだけ会話の内容を細かく思い出そうとした。

 ──俺、副部長のこと、



 軽音楽部元部長を見つけた女子生徒は彼女に駆け寄った。相手もこちらに気が付いたようで、へにゃーと微笑んでくる。

 それが今は腹立たしかった。

「暎子(えいこ)!」

「どうしたの、忘れ物? また体操服?」

「暎子……っ」

「?」

 嗚呼。
 なんて無垢に見える少女なのだろう。

「今日、一緒に、帰れるよね?」

「え。うん、部活が終わったら」

「私、迎えに行くから。あんた待ってなさいね」

「白馬に乗ってくるなら待ってる」

 本当は、今すぐ聞いてしまいたかった。自分の考えは正しいのか。それとも、ただの思い過ごしなのか。

 彼女は彼のことが好きだったのだ。

 はっきりと頭の中に文字が浮かぶと、突然、目頭が熱くなった。

「……泣いてる?」

「違う。埃。私、コンタクトだもん」

「大変だねえ」

 ねえ、私、あなたに諦めてほしくないよ。無理に笑ってほしくないよ。泣きたいなら泣いてほしいよ。

「ほら、コンタクトずれちゃうよ。トイレ行こ、しーちゃん?」

 自分の大切な気持ちを押し殺すなんて、してほしくなかった。


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