田んぼに囲まれた平坦な道はそれなりに舗装されていて、ガードレールなどもある。ほとんど直線コースだから、ハンドル操作の必要はあまりなかった。

「あのねー」

 そんなにスピード出して漕いではいないけど、容易に落ちないようにと腰に腕を回した小枝が大きめの声で話し掛けてきた。

 落ち着いた、ってことでいいのか。

「今日ね、わたし、ハルを玄関で待ってたでしょ?」

 バランスを取って運転してる最中に、背中に張り付いた人の顔なんて見れるはずがない。それは明るい声だった。「ああ」

「そのときに色々あったんだけど、ことりが楓くんを蹴っ飛ばしちゃって」

 ……すごい色々だな?

「目の前で見ると、うわあって、感じ」
「だろうな。で、楓は? ピンピンしてたんだろ? やるよな、あいつ」
「それが、伸びちゃったんだよ」
「えっ」

 体だけは丈夫で、気合いだけは十分な楓が、伸びただって?

 小枝はおかしそうにクスクス笑って、その先をなかなか話してくれなかった。
 伸びたにしろ、そう大したことなかったんだな。椎野さんに問題がないとは言わないけど、楓も学習する気がないんだから、おあいこかもしれない。

「だから、わたしとことりと先生で、保健室に運んだんだ」
「へえ、大変だったな」
「三人だったから軽かったけど、あとは任せて帰りなさいって、先生が言って」
「そこで放送まで使って俺を呼び出すか?」
「えへへ」
「結構恥ずかしかったんだぜ、あれ」
「ごめん、ごめん」

 それから派生した話をちょろちょろして、ほとんど真っ直ぐな道を走った。まだ出始めたばかりの稲の芽は青々として、小さく小さく揺れていた。


 + + +


「まったく、遅いよー、キミ。わかってたけど」
「どうも遅くなりました。でも、わかってたならいいじゃないか」
「よくないって。早くしないと、シイちゃん、起きちゃうだろ」
「彼女が起きると都合が悪いのかい?」
「悪いも何も。タイミングが大切なんだよ、どんなモノでも、コトでも」
「そう?」
「キミの出番はまだ先。ほら、無駄口叩いてないでさっさと帰れ」
「ぞんざいだね、ひどいなあ」
「ここでフルゾーに会われても厄介だからな」
「振蔵もいるの? 挨拶して行こうかな」
「あたしの話をちゃんと聞け、この無責任野郎」
「保健室の先生なのに冷たいね。僕の記憶の中にいる保健室の先生はもっと、こう、優しくて知的で、柔らかくて」
「さっさと帰れ!」
「はい、はい」




 STAND:幼なじみ 終

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